第27話 異世界の正体
「全く派手にやってくれるね〜。今ネットでも君たちについて大騒ぎ」
そう言いながら公安の車を運転していた女性は名刺を手渡してきた。
「名村小百合。今回の異世界案件の担当になった公安の刑事。建前上四課になってるけど、事実上の異世界案件の専属。あ、四課ってのは主に外国の問題を扱ったりしてる部署ね。
あとこの事は国家機密だから名刺含めて絶対漏らしちゃダメだよ」
軽い口調で淡々と話す名村。年も30代前半といったところだろうか。親しみやすそうな人柄に2人は一瞬で心を許す。
「2人はさっきの動物が異世界から来たものって分かってたの?」
「はい。SNSに上がってる画像が、どうも異世界にいる動物と似てて慌てて飛んできました」
「やっぱりアレ、異世界のものよね〜牛みたいな見た目だけど見た事ないもの」
「やっぱりアレ、牛みたいですよね」
「異世界ではどんな扱いなの?」
「野生の個体も居れば、こっちの世界のように飼い慣らされた個体もいます。扱いも同じで牛乳だったり肉だったり、基本は食用にされてて」
「じゃあ牛じゃん」
「牛・・・ですよね〜」
ケンタウロスについては七瀬の方が詳しいらしく、説明してくれたが改めて聞いても牛である。
「でも、牛よりもデカくて強かったよね」
「多分野生の個体です。異世界でも野良のイノタウロスは町を襲うほど凶暴なので」
「じゃあ牛じゃないじゃん」
「まあ、牛なわけなですよ。異世界ですし」
牛か牛じゃないかと言う会話をしているうちに警視庁に到着する。
「ちょっと聞きたいことあるから、聞かせてね」
「そう言う要件を先に言うんじゃないですか?牛の前に」
「あ〜確かにそうだったね。ごめん」
軽く手を合わせて謝る軽さは公安の厳格さとは掛け離れたものだ。そのギャップから彼女は信頼できそうだと2人は思い込む。
「これ、さっきのイノなんちゃらが出てきた時の防犯カメラ映像なんだけど、異世界に行く時もこんな感じなの?」
そこに映っていたのは、突如道の真ん中に青く輝くゲートが現れ、そこからイノタウロスが出てくる様子である。
「私の魔法で異世界に行くんですけど、大体同じような感じです」
「それってここで出来る?」
「家じゃないと使えないんですよ」
「え、魔法ってそんな制約あるの?」
「その異世界に行く魔法だけ、家でしか使えなくて」
「それ以外はここでも使えるの?」
「はい」
「う〜んなるほどね〜」
少し考え込んでから、パンッと手を叩く。
「ありがとう!色々ごめんね〜今日体育祭だったでしょ?」
「そうなんですよ〜ってなんで知ってるんですか?」
「公安ってそう言う組織よ」
「どんな組織なんですか」
その流れで、名村はテレビのリモコンを取り会議室のテレビを付ける。
時間的に夕方のニュースをやっていた。話題は特集を組まれて今日出没したイノタウロスと橘と七瀬を「謎の魔法使い!?」としてSNSに上げられたであろう動画を引用して盛り上がっていた。
「今、SNSでも君たちの事で大騒ぎよ」
「有名人ってこと!?」
「そんな気軽なものじゃないわよ」
名村はタブレットを取り出し、SNSのタイムラインを2人に見せる。
「イノタウロスって動物がこの世に存在しないって情報も相まって2人は異世界から来たとか魔法使いとか、はたまた国家機密の兵器とか様々な憶測が飛び交ってるわ」
画面を見ると、橘が出した氷柱がアップされ様々なことが言われていた。
「もうこうなれば収拾がつかない。報道規制をしようにもこの事態は収拾付かないわ」
「じゃあ、どうすれば」
「さっき見せた防犯カメラの映像も、どこからか漏れてネットで拡散されているわ。もう隠すのは無理だから正直に話すしかないのかもね」
名村はため息を吐きながらタブレットを閉じる。
「とりあえず今上で競技中だからちょっとだけここで待ってて。お菓子とジュース上げるから」
彼女のジェスチャーで入ってきた男性の手元には様々なお菓子の詰め合わせとジュース、そしてコップと丁寧におしぼりまで置かれていた。
「とりあえずゆっくりしてて。あ、スマホで外部に連絡取るのは上の判断が出るまでダメだから一回携帯回収するね」
そういって彼女は一旦席を空ける。それと同時に2人は椅子にもたれ掛かった。
「なんか、大事になっちゃったね」
「でも、助けに行って間違えは無かったな。現に警察や民間人結構な数が負傷してたみたいだし」
テレビに映し出された画面には負傷者数が80名に及ぶことが書かれていた。幸いにも死亡者は出なかったが、初期対応に当たった警官と住民数名が骨折で重症らしい。
「名村さん、ちょっと良いですか」
異世界案件に対応させられている新人が、会議室の静けさとは裏腹に慌ただしく動くオフィスの中で名村を呼び止める。
「どうしたの?そんな慌てて」
「これ、今科捜研から送られてきたんですけど見てください」
彼が持つ紙にはごちゃごちゃといろいろな文字が書いてあった。
「・・・要はどう言うこと?」
「これ、ここです!色んな動物のDNAと検証したんですけど、牛との一致率が95%なんです」
「要は、あれは牛だったってこと?」
「断定はできなんですけどかなり近しい、若しくは先祖が一緒の可能性があります。まあ、偶然って可能性も捨てきれないんですけど」
「なるほどね〜」
「それとこれ、公安が確認してる異能者の分布なんですけど」
彼は次にタブレットの画面を見せてくる。
「これ、本当?まだ発見出来てない人が居るとかじゃなくて」
「おそらくまだ発見できていない異能者は居ると思います。ただ、この分布の偏りは・・・」
「明らかにおかしいわね。日本以外は分かる?」
「様々な情報筋に確認しているのですが、日本以外での異能者は確認されていません。まあ、おそらく日本同様に国家機密として扱っていてまだ情報を掴めてないだけの可能性もあります」
「いずれにせよ、今回の件で明らかになるかもね」
「はい」
「ありがとう」
そうして2人は仕事に戻った。上層部の決定が決まらないとできないことが多いので情報収拾を続ける。
「的を得てる意見もあれば、陰謀論のようなものも多いですね」
「まあ、元が陰謀論に近いからかもな」
切り抜かれたり、誇張された情報があたかも真実のように拡散されているのを見て頭を抱えている。
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