第2話 思い出した部屋



夜。あなたは再び目を覚ます。


目を開ける前から、そこが自分の部屋ではないと分かった。

カーテンがない。時計がない。窓の外には、何もない。

けれど、なぜか見覚えがある。


この天井。この埃の匂い。この――壁の染み。


「……ここ、知ってる」


あなたは呟いた。声が、空洞のような部屋に吸い込まれていく。


目の前にはテーブル。そこに、またあの日記がある。

昨日、家に置いたはずの日記。開いてあるページは、前回閉じたままの場所から――先に進んでいた。


次のページには、赤いインクで書かれた文字。


三日目。

部屋は戻ってきた。記憶も、少しずつ染み出してきた。

私がここで最初に聞いた音を、あなたはまだ知らない。

でももうすぐ始まる。あの音が、すべてを思い出させる。

あなたが開いたから。

あなたは身震いする。寒さのせいではない。

日記の紙が、少し濡れている。


雨だ。部屋に雨が降っている。


音はしない。けれど、あなたの肩に一滴、雫が落ちる。


“ぴち”


あなたは天井を見上げる。雨漏りはない。けれど、雫はあなたの髪に落ち続けている。


日記に指を伸ばそうとした、そのとき。


玄関の扉が、ノックされた。


──コン、コン。


あなたの体は凍りついた。


誰?

いや、それ以前に――ここに玄関なんて、あっただろうか?


けれど確かに、扉がある。小さな、古い木製のドア。


コン、コン。

その音は二度鳴ったあと、止まった。


あなたは立ち上がり、扉に近づく。


ノブに手をかけると、その下に紙が差し込まれていた。

誰かが外から入れたらしい。


開くのが怖い。けれど開けるしかない。


小さな紙切れには、たった一言だけ。


「ここからまた始めるの?」

その筆跡は、あなたのものだった。


あなたは、思い出し始めている。

この部屋。日記。雨の音。そして、あの扉の向こうにいる“誰か”の存在を。


けれどまだ、名前が思い出せない。


扉の向こうには何がある?

開けるべきなのか?

あなたはまだ決められない。


けれど、日記の次のページには――こう書かれていた。


四日目。扉を開けた。もう逃げられない。

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