第2話「氷の歌姫」

入学式が終わった後、ルミエール学園の中等部ホールでは、

在校生による歓迎ステージが行われた。


「すごい……本物のアイドルみたい」


シオンは客席で、目を輝かせながらステージを見つめていた。

色とりどりの照明、ビシッと決まったダンス、堂々と歌う姿。

そのすべてが、憧れの世界そのものだった。


だけど――

それは、“彼女”が出てきた瞬間に、すべてが変わった。


照明が落ちる。ピアノのイントロが、静かにホールを包み込む。

真っ白なドレスのような制服。水色の長い髪がふわりと揺れる。


彼女は、客席に何のリアクションもせず、ただマイクを握る。


「……歌います」


その少女の名は――

愛莉奈(ありな)。


彼女の歌声は、はじめから終わりまで“完璧”だった。

音程もリズムも、ブレなんてひとつもない。


でもそれ以上に、なぜかシオンは、

目の奥が熱くなっていくのを止められなかった。


(なんで……?)


その声は、あまりに綺麗で。

それなのに、あまりにも冷たくて、悲しかった。


「……すごい……でも、なんで……なんでこんなに苦しくなるの……?」


ステージが終わっても、シオンは立ち上がれなかった。


愛莉奈は、無言でステージを降りていく。

拍手も歓声も届いているはずなのに――どこか、空っぽのようだった。


その後、ステージ裏で偶然すれ違った。

勇気を出して、シオンは声をかけた。


「あの……さっきの歌、すごく心に響いたよ」

「……そう。ありがとう」


その返事は、あまりにも静かで、

それ以上何も言えないほど――遠かった。


だけどシオンは知っている。


あの歌の奥に、本当の“心”がある。


それは、誰にも気づかれないほど小さな火。

でも、ちゃんとそこにあった。


「この子と……一緒に歌ってみたい」

「この人の“本当の声”を、誰より近くで聴きたい――」


その想いが、胸の奥で強くなっていく。


こうして、ふたりの距離は静かに近づき始めた。


そしてそれは、まだ誰も知らない

“ジェットコースター”みたいな未来の始まりだった――。

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メロディア! みらい @nino_06

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