君の視界の1ピースだけ、私に。
城辺まゆ
始まりの鈍い音
田山圭吾。彼との出会いは最悪だった。
学校からの帰り道、まるで夏の訪れを知らせるような生ぬるい風が吹くある日の事。
橋の欄干の外に半分ほど身を乗り出していた彼に声をかけたのが始まりだった。
どれだけ説得しても
「あなたには関係ないですよ」
彼はそう言って貧相な身をさらに乗り出すだけだった。
私はその光景に耐えられず
「ごめんなさい!」
そう叫び走って彼から逃げた。
あれから1週間、1ヶ月経っても、あの光景を忘れることはなかった。
彼はまだ生きているのか。どんな事情でこうなってしまったのだろうか。そう考える度に自分がどんどん惨めになっていく。
そんなモヤモヤを抱えあの場所に再び足を運ぶことにした。
春の強い風が吹き、視界が自分のなびいた髪で埋まってしまう。
風がおだやかなペースになり再びあの景色が私の目に映った。
ぼやけていた視界がやがてはっきりとして、欄干部分に焦点を合わせる。
そこに彼はいた。
君の視界の1ピースだけ、私に。 城辺まゆ @myu_rob
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