マヴ
ある日の放課後、
「アタシたち、これからどうなるのかな?」
「あのままMOMOZONO_500の言いなりになっていたら、取り返しのつかないことになりそうだよ」
「あぁ、もう! なんでウチらがこんな思いをしなきゃいけないの!」
正体不明の支配者からの解放――それが三人の切実な願いであった。さりとて事実として、彼女たちは自主的に杏里を追い詰めていたことはある。して、支配者はその証拠を握っており、ある種の生殺与奪の権限を有しているも同然なのだ。そんな中、主犯の少女はこう呟く。
「なんか、闇バイトみたいだよね。そのうち、もっと過激な指示が来るんじゃないかな?」
それは紛れもなく、他の二人も思っていたことだ。同時に、それは彼女たちがあえて言及してこなかったことでもある。
「やめてよ。そんなこと、わかりきってるでしょ。わたしたち、どこで間違えたのかな?」
「……全部だよ。ウチらは世間に知られたくないようなことをした。今は、そのツケを払わされているんだよ」
「だけど、わたしたちをこんな目に遭わせてる奴がのうのうと生きているなんて! そんなことが許されていいわけないでしょ!」
もはや彼女たちには、冷静で居続けることなどできなかった。こんな時に救いの手が伸べられれば、三人はそれが藁や泥舟であってもすがりつくだろう。
そこで空き教室を訪ねたのは、一人の少女だ。
「話は聞かせてもらったよ」
「ア、アタシたちをどうする気なの? アタシたちがスケープゴートになったところで、なんの解決にもならないでしょ!」
その警戒心があるのも、彼女自身が後ろめたさを抱えているがゆえのことだ。その反応を一笑し、沙奈は囁く。
「そう。アナタたちは駒にされているだけ。今、誰よりも助けを必要としているのは、誰よりも苦しんでいるのは……アナタたち三人だと思う」
何やら彼女は、目の前のいじめっ子たちに寄り添うことを選んだようだ。否、その仕草にも裏はあるだろう。されど、彼女の存在は三人からすれば、暗闇に差し込んだ一筋の光に他ならないのだ。
「沙奈は……アタシたちの味方なの?」
「当然でしょ。アナタたちは加害者だったかも知れないけど、今はもう被害者だもの。例え他の誰もがアナタたちを許さなくても、ワタシだけは許す」
「あ、ありが……とう……」
ようやく理解を示された主犯は、か細い声で礼を言った。しかし理解者を得ただけでは、この三人が支配を免れるのは難しい。そこで沙奈は、彼女たちを扇動する。
「それで提案があるんだけど、
「確かに、真梨が味方なら頼もしいけど、どうやって味方に……」
「あの子を動かしたいなら、あの子を巻き込めば良い。つまり、あの子を標的にして、黒幕を探る動機を作ってしまえば良いんだよ」
その提案は、目に見えて常軌を逸していた。当然、三人は反対の姿勢を見せる。
「いくらなんでも、それは……」
「そんなことをしたら、ウチらの経歴が更に傷ついちゃうよ」
「それに、無関係の人間を巻き込むなんて……」
例え他者をいじめるような輩であっても、他者を操るような手口を拒むに足る善性を持つ。その善性を持たない者は、真梨と沙奈くらいのものだ。
「アナタたちは、手段を選べないほどに追い詰められている。そんなアナタたちがどんな手を使っても、それを責める資格は誰にもない」
「で、でも……」
「ワタシたちは運命共同体――マヴだよ。アナタたちは、決して孤独なんかじゃない」
そう告げた沙奈は、聖母のような微笑みを浮かべていた。
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