やさしい雨は悲しみを知っている
sui
やさしい雨は悲しみを知っている
森の外れに、雨しか降らない丘があった。
晴れの日も、嵐の日も関係なく、そこにはいつも静かな雨が降っていた。
人々はその場所を「泣き丘」と呼び、近づこうとはしなかった。
けれど、少女セナは毎日のように、そこに通った。
兄がいなくなった日から——。
彼はある朝、手紙一つを残して、森に消えた。
「悲しみを食べる鳥を見つけに行くよ」
そう書かれていた。
誰も信じなかったが、セナは信じていた。
丘に通って、雨のなかでじっと待つことが、
兄とまた出会える唯一の道だと信じていた。
ある日、丘に一本の古い木が倒れていた。
その根元に、小さな鳥がうずくまっていた。
白く透き通った羽。
目は閉じていたが、どこか懐かしい面影があった。
セナが手を伸ばすと、鳥はそっと開眼した。
その瞬間、彼女の胸の奥にしまっていた涙が、静かに流れ出した。
鳥は、彼女の頬に触れた雨粒を一粒食べた。
まるで、悲しみそのものを飲み込むように。
すると、不思議なことが起きた。
空の雨音がやさしくなり、光が少しずつ、雲の切れ間から差し込んできた。
丘に生えていた花が一輪だけ咲いた。
兄が好きだった、青い花だった。
セナはその花を見て微笑んだ。
「たぶん、まだ会えない。でも……ちゃんと、届いてるね。」
鳥は一度羽ばたき、空へと消えていった。
そのあとは、雨が止んでいた。
それからというもの、「泣き丘」は少しだけ優しい場所になった。
雨はまだ降っていたけれど、その音はどこか、あたたかかった。
やさしい雨は悲しみを知っている sui @uni003
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