罪人ノ為ノ贖罪学園

西本星

デッドエンド/バッドエンド

二〇八五年 十二月二十五日


 それは静寂に満ちた、夢のように儚い夜だった。


 都会の中にありながら、耳障りな喧騒は一切ない。

 本来であれば、冬が落とす凍える寒さに耐えながら、焦がれる誰かを待つこともあるのだろうが、ここにそのような風習は訪れない。

 誰も知らない、気にしない深夜の学校。

 それは世界から切り離された、ひとつの異界であるだろう。

 故に、このような場所に足を踏み入れる者はなく。

 私はただ独り、屋上で静かに時が過ぎていくのを待っている。


 忌々しい人間たちの中に紛れる生活。

 古き同胞達の声。

 友人達との輝かしき思い出……


 そんな感傷じみたものが渦巻く中、私は街を見下ろしている。

 長きに渡る計画も、今夜で終わる。

 肉体からだと魂が剥離されていく感覚。

 世界から拒絶されるような浮遊感が体に纏わりつく。


 ……長い、長いゆめだった。

 

 二時間後、人類は消滅する。

 例外はない。見境はない。

 霊長の座に着き、長きに渡って文明を築いてきた人類史は新たな時代を迎えること無く、今宵こよいを以て終了する。

 終末は止まることはない。

 止めなければ人類に未来さきはない。


 二〇八五年、十二月二十五日。

 罪人は裁かれ、世界は終わりを告げる。


 ――儚い月が輝く、美しい夜に。

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