古のアルカディア
かなとん
第1話 崩壊の始まり
「はあっ、はあっ、っなんで私たちがこんな気持ち悪いスライムみたいなのと戦わなくちゃいけないのよ」そんな言葉は本来聖騎士である私が口に出してはいけない事だと頭では分かっていたけどつい口走ってしまった。
「おい!アメリア!今はそんなこと言ってるほど暇じゃねぇぞ!」仲間のウインドルフに𠮟られてしまった。
「ウインドルフ!こんな時にアメリアを責めないであげてよ!」私を庇ってくれたのは長年の友人であるエリナ―ゼである。
「一旦落ち着けよお前ら……」呆れた顔で言うのはエリナ―ゼの兄であるオスカー。
私たち4人の聖騎士がなぜこの気持ち悪いスライムと戦っているのかというと少し時を巻き戻す事になる――
「今日も暇だなー、いい加減街の巡回じゃなくて外の魔物退治に配属してほしいぜ」
「もうウインドルフ、そんなこと言ってないで街で困っている人がいないかちゃんと確認してよね」
「そうだぞウインドルフ、どうせお前じゃ魔物退治に配属されないぞ」
「アメリアー、今なんつったか?ああん?」
「何度でも言ってやるよ、お前じゃ魔物退治に配属されないぞ」
「言いやがったなてめえ!」ウインドルフはアメリアの顔を睨みながら言う。
「実際私より弱いじゃん」私は馬鹿にするように言う
「っ、それは今だけだぞ!そのうちお前を追い抜いてやるからな!」ウインドルフは強いまなざしで私を見る。
「はいはい。二人とも喧嘩すんなよー」気だるそうにオスカーが言った。
「もう二人とも喧嘩はめっ、ですよ?」
「分かってるよ、言われなくても……」少しばつが悪そうにウインドルフが言った。「はいはーい」適当に私は返事をした。
「そういえば話は変わりますが、最近教会の襲撃が後を絶ちませんよね」
「あーあれだろ?黄昏のアルカディアの信徒達がセレスティア教の教会やシスター達を襲ってんだろ?」
「全く困ったことだな、俺達もセレスティア教の教会に気楽に礼拝しにいけないなんて」
「まあ、そのうち襲撃も収まるでしょ」
「だな」
「そうだね」
「そうだといいがな……」
そうして話ながら街を巡回していると何やら街の住人たちが空を指さしながら何か言っているのが聞こえた。
「ねえ、あれって……」
「あれは――十字架?」
「なんで空に十字架が?」
「なあ、あれなんかデカくねえか」
「そうか?」
「いやどう考えてもでかいだろ!よく見て見ろよ!」
「なー、十字架の下って確か第三教会じゃないか?」
「こっから第三教会って結構距離あるよな……」
そんな話を住人たちがしていた。
「な、何かなあれ……」
「よくわからんが第三教会だけじゃないみたいだぞ」そう言われ辺りを確認して見ると第一教会、第二教会、第四教会、第五教会の上にも十字架が現れていた。
「なんかやばそうね」
「い、急いで第三教会に向かいましょう!」
「「「だな」」」そう言って私たちは第三教会に向かった。
第三教会につくとそこには教会内から出てきたであろうシスター達が困惑の顔を浮かべながら教会の外にいた。
「あ、聖騎士さん」シスター達は困惑の表情を見せながらも、少し安堵したのか優しい声で私たちに聞いてきた。
「皆さんご無事ですか」エリナ―ゼがシスター達に問いかける。
「はい、特に怪我もしていないのですが……一体この十字架は何なのでしょう?」シスター達は恐怖心からか、はたまた好奇心からか、私たちに聞いてきた。
「私たちも詳しいことはわからないのですが……なにかあってはいけないので皆さんは避難所に避難してください」そう私が言うとシスター達は避難所に向かって歩きだした。
「さてと、どうしたもんかね」
「本部に連絡しに行くか?」
「でも、なにかあった時私たちがいないといけないのでは?」
「なにかってなんだよ」
「そ、それは分かりませんが……」
「まあみんな落ち着いて、本部にはもう俺が伝達石で伝えといたから……」
そう言って私たちが話していると突如、「ベキッ」と上から聞こえた。見上げると十字架が段々と横に開いていく――すると十字架から何かねばねばしたスライムのような「何か」が「ぴちゃっ」と音を立ててこの地に落ちてきた――
その「何か」の姿を見た瞬間、強烈な吐き気と気味の悪さを感じた。
その「何か」は、玉虫色に艶めく泥のような塊が、私たちの目の前にずるりと這いよってくる。裂け目から覗く白い歯列と嚢胞のような無数の眼球が私たちを逃がさないとばかりに見つめ蠢いていた。ぬたり、ぬたり、足音のようなものが地面を鳴らし「それ」は近づいてくる。不気味な甲高い声で「テケリリ!テケリリ!」と鳴きながら、それは全身の眼球で私たちを間違いなく見ている。そのような光景を見た私は突如込み上げてきた強烈な吐き気と気持ち悪さに耐えきれず吐いてしまう。
「うっ、おぇぇっ」周りを見るとエリナ―ゼも吐いてしまったようだ
「おっ、おいっ!しっかりしろ!」そう言ってウインドルフが私の背中をさすってくれる。見ればオスカーもエリナ―ゼの背中をさすってあげているらしい。
「おい、アメリア!立てるか!」そう言われ込み上げてきていた吐き気を飲み込み、剣を構えながら立つ。エリナ―ゼも私と同じように顔に冷や汗をかきながら立っている。ウインドルフやオスカーもこの「怪物」を見て恐怖を感じているだろうに取り乱すことをせずに「怪物」に向かって剣を構えていた。
街では至る所で悲鳴や叫び声、泣き声、そして「鳴き声」も聞こえてきていた――
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