第7話 最終決戦だ

 オーガも知能があるようで、いきなり襲ってきたりはせず、俺たちの元に近寄ると、その場で様子を観察し始めた。

 そして、何かに気づいたオーガが、声を上げる。


「なっ……も、もしかして、あの人間の隣にいるのって……」

「間違いねえ、かつて伝説と謳われた、孫悟空とフェニックスだ!」


 流石は神籬の大森林に住み着く2人だ。

 その存在だけで、オーガがビビって後ずさりを始めている。


 だが次の瞬間、辺りにドスンドスンと、地面が揺れるほどの轟音が鳴り響いた。

 その音の鳴る方に目を向けると、そこにはオーガ族のボスであろう、他のオーガよりも一回り大きい、漆黒の鬼が佇んでいた。

 片手に巨大な金棒を持ち、自信に満ち溢れた狂気的な笑みを浮かべながら、ゆっくりとやってくる。


 そうして、集まるオーガ族の元に奴がやってくると、いきなり後退するオーガを、金棒で叩き潰した。


「えっ……?」


 俺はその様子に困惑する。


「がっはっはっはっは! 何が伝説だ! そんなものは所詮ただの噂、伝承に過ぎぬ! こんな奴らに怖気付くなら俺は仲間として認めん! 進め! オーガども!」


 低く力強いその声は、オーガ全員の背中を叩くかのようで、オーガの姿勢が急に変わった。

 そして、隣にいる孫悟空が、俺に囁く。


「ローよ。吾輩とフェニックスで、群がるオーガたちを殲滅する。お主はあのオーガのボスと戦ってくれるか?」


 俺がボスを担当……。

 ただの人間が、ボスを担当……か。


「原作通りじゃないか!」


 俺は口角をつり上げる。


「よし! 任せろ! あのボスは俺が相手する!」

「うむ。分かった」


 そう言うと同時、フェニックスと孫悟空は、凄まじい勢いで上空へと飛び立っていった。




 孫悟空は、筋斗雲に乗りながら、地面に群がるオーガたちに向けて、如意棒を向ける。


「伸びよ! 如意棒!」


 そう言った直後、孫悟空の持つ如意棒が勢いよく伸び、オーガの顔面を捉えた。

 そのオーガは激しく吹き飛び、他のオーガをも巻き込んで海に落ちていった。


「なっ! ひ、怯むな! 数は圧倒的有利! 攻撃だ!」


 そして、そう指示するオーガに、再び孫悟空の如意棒が伸びて、突き刺さろうとする。

 だが、その直前、オーガは自身の金棒を間に入れていた。


「ふんっ。そんなものでこの如意棒が止まると思ったら大間違いよ……」


 次の瞬間、如意棒の勢いは留まることを知らず、オーガの金棒を砕き、そのままオーガの体を激しく突いた。


「これでは時間がかかるな……」


 そう言うと同時、孫悟空は如意棒を戻して、右手で自身の毛を数本一気に抜いた。

 そして、指につまんだ自身の毛を吹いて、空中にばらまいた。

 その直後、孫悟空の吹いた毛が、孫悟空と全く同じ姿をし始めたのだ。


「進め! 我が分身たちよ!」

 

 その数なんと、本体も合わせて20人。

 オーガの持っていた数の有利は、この孫悟空の技によって一気に縮まった。

 そして、20人の孫悟空による激しい如意棒の突きが、オーガたちを襲う。

 もはや人骨など投げる暇すら与えないほどに、その連撃は凄まじいものだった。




 その頃、不死鳥フェニックスは巨大な翼をはためかせながら、オーガの様子を覗っていた。


「くそっ! あんな高いところにいられたら、攻撃が届かねえぞ!」

「これでも喰らえ!」


 そう言って一匹のオーガが、なんと自身の金棒を、空にいるフェニックスに向かって思い切り投げたのだ。

 その狙いは、フェニックスの腹部だった。

 狙いは正確……速度も速い。もはや避けることも出来ず、フェニックスは直撃してしまうと思ったが、その心配は杞憂だった。

 なんと、オーガの投げた金棒は、フェニックスの腹部を通り抜けたからだ。


「なんだ!? 通り抜けただと!?」

「そんな馬鹿な! もっと投げつけろ〜!」


 あるオーガのその声に、他のオーガたちもフェニックスに向かって武器を投げつける。

 だが、その全てがフェニックスの体を貫通していたのだ。


「では、私も反撃をさせてもらうぞ……【紅蓮】!」


 そう言うと同時、フェニックスは巨大翼を広げ、そのまま勢いよく翼を羽ばたかせた。

 すると、オーガたちのいた地面が激しく燃え上がり始めた。


「あっち! あっち!」


 全身が燃え上がる中、オーガたちが取れる行動は、もはや海に飛び込むことだけだった。

 半分はその場で焼死し、残りは海に飛び込んだ。


「くっふっふ。私の炎が、そんなもので消えるとでも?」


 だが、海に飛び込み、海から顔を出した刹那、オーガたちの顔が再び炎に包まれた。

 どうやらフェニックスの炎は、水なんかでは消えないらしい。

 そうしてフェニックスは、オーガの大群を一瞬にして燃やし尽くしてしまった。




 そしてその頃、俺はオーガのボスと退治していた。


「が〜っはっはっは! おい人間、俺との戦闘を任されたようだが、大丈夫か? 一対一で、このキングオーガさまに敵うやつなど存在しないのだよ!」


 キングオーガはそう笑いながら、俺を挑発する。

 だが、その直後、キングオーガの後ろから、激しい轟音が聞こえてくる。


「ん? なんだ……?」


 それは、次々とオーガの大群を殲滅する孫悟空とフェニックスだった。


「何? あの量のオーガでも、全く攻撃できていないだと……?」

「あっ……」


 今、キングオーガは後ろを向いている……攻撃をするなら、今がチャンスだ!


 俺は腰の剣を抜いて、キングオーガに向かって走っていった。

 そして、目の前まで来たところで、高く飛び上がり、剣を振り下ろす。


「がっは〜!」

「なっ!」


 だが、剣を振り下ろす直前、キングオーガは張り付いたような笑みを浮かべながら、俺の方を振り向いてきたのだ。

 それは、完全に最悪なタイミング。

 空中にいる俺は、どうすることも出来なかった。

 直後、キングオーガの巨大な金棒が俺の体に食らいつく。


「がはっ!!!」


 弾かれた勢いのまま、俺は吹き飛んでいき、大きな岩に直撃してしまった。

 背中に焼けるような痛みが走る。

 だが、防具を着ていたおかげか、即死はせずにすんだ。


「くそ……でもダメだな……」


 俺は右手に持っていた剣を見る。

 そう、キングオーガに弾かれた衝撃で、剣が折れてしまったのだ。

 こんな時……原作だったらどうしているか……。


「はっ!」


 俺は腰に巻き付けていた布袋が目に入る。

 確か原作できびだんごは、食べれば百人力だったような。

 迷っている時間はない。俺はすぐに布袋を開き、中からきびだんごを取り出した。


「おや坊や、そんな瀕死状態でおやつかい?」


 そうしてきびだんごを一口、口にした……直後!


「おぇぇぇえええ! まっず! 不味すぎる! なにこれ!?」


 俺はきびだんごのあまりの不味さに驚いた。

 フェンリルは甘くて仄かに苦いと言っていたが、仄かなんてものじゃない!

 苦すぎて舌がピリピリする、まるで毒を食べているみたいだ。


 そうしている間にも、キングオーガはゆっくりと近づいてくる。

 武器はないし、きびだんごの百人力なんか期待できない。

 もうどうにでもなれと、俺は食べかけのきびだんごを、キングオーガに向かって投げつけた。


「んっ!」


 すると、そのきびだんごは、キングオーガの口の中にすっぽりと入っていった。

 何か分からず咀嚼をするキングオーガだったが、次の瞬間、俺と同じ反応を見せる。


「おぇぇぇえええ!!!」


 これによってキングオーガの動きが一瞬止まった。

 これは使えると思った俺は、布袋から最後のきびだんごを手に取る。

 これをもう一度口に入れて、動きが怯んだ隙に斬る!

 剣は折れているが、刃はまだ半分残ってる!


 俺は力いっぱいきびだんごを、キングオーガの口に向かって投げた。


「なっ!」


 だが、キングオーガは巨大な金棒で、きびだんごを空高く弾き返してしまった。


「小僧……この俺様に何を食わせ……げふっ!もう許さん……殺す!」


 その直後、キングオーガが金棒を持って俺の方に走り始めた。

 効果が切れてしまったのか、キングオーガの動きに淀みはない。

 俺はその瞬間、死を悟った。


「えっ!?」


 だが、俺の頭上を、白く光る何かが通る。

 そしてそれは、落ちてくるきびだんごを咥え、俺とキングオーガの間に着地した。


「このきびだんごが不味いとは……食のありがたみを知らん奴らめ……」


 きびだんごを食べながら話すそいつは、俺の仲間になったフェンリルだった。

 俺は驚きを隠せず、フェンリルに問いかける。


「ふぇ、フェンリル! 来れないんじゃなかったのか!?」

「ふんっ。行くのが面倒で貴様に嘘をついただけだ」

「え……」


 俺はそんなフェンリルな呆れ、ため息をついた。

 だが、フェンリルは激しく怒った。


「なのになんだ! きびだんごの匂いがしたから来てみれば、貴様がきびだんごを食らい、敵であるオーガにもきびだんごを食らわせるとは! 我が食べたかったのだぞ!」


 そう怒るフェンリルの前に、キングオーガがものすごい勢いで突進してくる。


「がぁぁぁあああ!!!」

 

 そんなキングオーガに、フェンリルは一切の表情を変えることなく、怒りのままに空に向かって吠えた。

 直後、オルグナ島に黒い雲が集まり始める。


「【怒雷咆どらいほう】!」


 フェンリルがそう叫ぶと同時、キングオーガに、とんでもなく大きな雷が降り注いだ。


「ガガガガガガガ!!!」


 そして、数秒雷を食らったキングオーガは、角が折れ、口から煙を吐いてその場に倒れた。


 フェンリルの体から光が消え、空の黒い雲が霧散したところで、フェンリルが俺の元にゆっくりとやってきた。


「色々言いたいことはあるけど、まずはありがとう……フェンリル……」

「ふんっ。貴様がきびだんごを取り出さなければ、我はここには来なかっただろう。貴様の英断が、貴様の命を救ったのだ。我ではない」


 すると、他のオーガを相手していた孫悟空とフェニックスも、殲滅し終わったようで、俺たちの元にやってきた。


「ようやく終わったのか……」

「くくくっ。簡単な相手だった……」

「がっはっはっはっは!!!」

「「「「!?」」」」


 その時、俺たちの向こうから、キングオーガの笑い声が聞こえてきた。

 

 まさか、あのフェンリルの攻撃を食らって耐えていたのか!?


「がっはっはっは……我らを滅ぼして良い気になるな。我らは魔王様の持つ一部隊に過ぎん。我らを壊滅させた貴様らには、必ず魔王様からの鉄槌が下るだろう……これで終わったと思うな、がっはっはっは……」


 その言葉を最後に、キングオーガは目を閉じて絶命した。


 そうか……オーガ族を操る、さらに上の存在がいるということか……。


 俺はフェンリルの肩を借りてフラフラと立ち上がる。

 澄んだ青い空と、波立つ海を見ながら、俺は思う。


 奴が言うに、きっとまた新たな脅威がやってくるのだろう。

 だが、とりあえずはオーガ族を壊滅させることができ、一つ脅威は去った。

 

 ここまでは桃太郎の原作通り。

 そしてここからは、俺の知らない……原作にない……新たな物語が始まるんだ……。

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【短編】“桃太郎”の原作知識しか持っていない俺が異世界にやってきたら…… 左腕サザン @sawan_sazan

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