第6話 俺たちは鬼ヶ島にやってきた

 犬、猿、雉と、原作通りに仲間を全て集めた俺は、もうこの森を歩き続ける必要もなくなった。

 そこで、俺は皆に問いかける。


「仲間も集まったから、これから鬼ヶ島に行きたいんだけど、誰か鬼ヶ島の場所知ってる?」


 すると、皆はコソコソと耳打ちをしてから、答えた。


「そなたの言う鬼ヶ島というのは、オーガ族の住み着くオルグナ島のことを言っておるのか?」

「あそこは元々、人間の領土だったが、急激にオーガ族が増え始めてから、オーガ族に支配されたと聞くな」

「もともと島に住んでいた人間は、全員食い殺されたと聞きますね」


 その話に、俺は怒りが込み上げてきた。

 あんなにも優しい人々の命を、自らの欲望のままに奪い取るなんて……絶対に許せない!


「それにしても、オルグナ島に向かうなら、この神籬の大森林から抜け出さねばならんな」


 確かに、ここは大森林と言うだけあって、この森に入り込んでからというもの、あれだけ進んだにも関わらず、景色は全く変わらないし、木々の隙間から遠くを見ても、全く終わる気配がない。


「がっはっは! この森から出るのなんて何十年ぶりか!」

「吾輩は数百年は出ておらんな」

「私もこの森から出るのは長く久しいですね」


 なるほど。皆この森から出るのは久しぶりなのか。

 だが、どうやってこの森を抜け出そうか。

 さっきまでのペースで歩いていては、何日……いや、何週間かかるか分かったもんじゃない。


 すると、フェンリルが話し始めた。


「ローよ、貴様が普通の人間でないことは既に承知しているが、この神籬の大森林から抜け出すには、外部から来た人間だけでは不可能だ」

「ど……どういうことだ?」

「つまり、吾輩らの力がないと、ここからは永久に抜け出せんのだ」


 そうだったのか……そこは少し原作と違うな。


「けど、皆の力を借りると言っても、どうやって抜け出すんだ?」

「がはははははっ!!!」


 俺がそう問いかけると、その質問を待っていたと言わんばかりに、フェンリルが豪快に笑い始めた。


「神籬の大森林から抜け出すには、ここで生まれ育った者のみが神より授かった“神魔術”というものを使うのだ」

「神魔術……?」


 俺が問うと同時、フェンリルは目を瞑って、何かをボソボソと言い始めた。

 直後、フェンリルの体が白く光り始める。

 かと思えば、その光が徐々にフェンリルから消え、フェンリルの目の前に、白い光の玉のようなものが現れ始めた。


「がはっ……これだ。神魔術により生み出した魔力を、今から貴様に授ける。これを受け取れば、貴様はこの森から抜け出すことが出来るようになるぞ……」


 すると、フェンリルがその白く光る玉を、俺に向かって放った。


「うわっ!」


 直後、俺の体が、先ほどのフェンリルのように白く発光する。

 そして、俺とフェンリルが会話をしている間に、孫悟空とフェニックスも、同じように唱えていたようで、2人も俺と同様白く発光し始めた。

 だがここで、フェンリルが衝撃的な一言を発する。


「すまんな。この神魔術は、一度使えば、短くとも数年は使えぬのだ」

「えっ!? そ、それって……」

「あぁ、つまり我は貴様らとともに行くことは出来ぬ」


 これは俺にとってかなりの痛手だった。

 さっきの戦いと、皆の発言から、おそらく孫悟空とフェニックスだけでも、戦力としては十分だ。

 だが、原作では、やはり鬼は圧倒的に数が多く、一人一人が強い。

 4人から3人になることで、その圧倒的な数の鬼を相手しきれるかというのが心配だ。


「安心しろ。孫悟空もフェニックスも、我に劣らぬ優れた力を持っている。例えどちらか一方だけでも、オーガ族など簡単に捻り潰してしまうだろう」

「フェンリル……」


 俺は思わず涙が出そうになった。

 そんな力を、わざわざ俺のために使ってくれたなんて……。

 もう時間もあまりないだろう。

 こんなところでクヨクヨなんてしていられない。

 俺は、フェンリルの思いも背負って、爺さん婆さん、そしてアラガンス王国の皆のために、鬼を退治しなきゃいけないんだ!


「分かったよフェンリル。ありがとう」

「お主……呆れたぞ……」

「フェンリルさん……」


 少しの沈黙が流れ、フェンリルが話した。


「ここから南にずっと進んだ所に、オルグナ島がある。その魔力を纏っていれば、そう遠くはない。フェニックスの背中か、孫悟空の筋斗雲にでも乗せてもらえ」

「……分かった」


 そうして、俺は孫悟空の筋斗雲に乗せてもらい、フェンリルと別れを告げることになった。


「気をつけるのだぞ。まぁ、孫悟空とフェニックスがいれば負けることはないがな」

「あぁ! ありがとう! 必ず勝って帰ってくるから! 少し待っててくれよな!」


 フェンリルに別れを告げた直後、燃え盛る大きな翼を広げたフェニックスが、勢いよく南の方向へと飛び立つ。


「では、吾輩たちも行くとするか」

「……あぁ! 行こう!」


 そして、筋斗雲に乗った孫悟空と俺は、フェニックスの後を追うようにして、凄まじい速度で飛び立った。


 それから数分もしないうちに、神籬の大森林に終わりが見えてきた。

 そして、その奥には、海が広がっている。


「うわぁ……やっと森から抜け出せたのか……」


 俺が、上空から見える景色に、そう声を漏らしていると、孫悟空が俺に話しかけてきた。


「ほら、ローよ。もう見えてきたぞ」

「え? 何が……って、あれか……」


 そう、孫悟空の如意棒が指した方向には、ポツンと一つ、海の上に、黒い島が浮かんでいた。

 言われずとも、一目見て分かった……あれが、オルグナ島なのだと。


 空の上から島を見ると、鬼たちが楽しそうに酒を交わしている。


「なっ!」


 そして、俺の目に、衝撃的なものが映り込んでしまった。

 それは、大量に積み上げられた、明らかに人間のものであろう人骨。

 そしてその上に、鬼たちが座っているのだ。


「なんて最低な奴らなんだ……」

「では降りるが、良いか?」


 俺は孫悟空の言葉に頷き、オルグナ島に降り立った。

 それと同時、空からフェニックスもやってくる。


 酒を飲み交わしていた鬼たちが、ようやく俺たちの存在に気づく。

 そして、明らかに仲間ではないと分かった途端、皆が斧やら金棒やらを手に持ち、ズカズカと大群で俺たちの方に向かって歩いてきた。


 そして、ここから壮絶な最終決戦が始まる。

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