カウント2
僕の子供時代はいつも孤独だった。
父さんは軍人でいつも家には帰らずに基地に常駐していた。
もうすぐ帰れそうだと、そんな浮ついた話があれば何かしらの争いが起こって話は立ち消えた。
母さんは看護師だった。
小さな村のたった一つの診察所で働いていて、帰りは夜遅く。帰ってきたと思ったら連絡があって診察所にとんぼ返りなんてことはしょっちゅうだった。
だから僕はいつも家で孤独だった。
だけど、学校にはそれなりに友達は出来た。
バカみたいな男友達。女の子をいつも揶揄って遊んでいた。
バカみたいだけどそんな事くらいしかやる事はなかった。
村は誰もが貧しかった。
帰り道に女の子が一人で歩いていた。
スカートを履いて少し猫背で痩せている。
リュックを背負って前には本を大切そうに抱えていた。
僕の家の隣に住んでいるキャシーだ。
彼女の親父さんも軍人でよく交流があり見知った仲だった。
だけど、最近は話さなくなった。
1人のバカな友達は叫ぶ
「やい、キャシー!1人で帰っておままごとでもするのか!?」
その通りかもしれない。そう思った。
彼女の親父は戦争で亡くなった。
それは紛れもない事実だった。
母さんは同情して少しの間よく連絡を取り合った。
だが、ウチの親父は生き残った。
その事実は重かった。
双方口には出さないが何か言葉を交わすと、まるで言葉の最後に
「でも貴方(私)の旦那は生き残ったわ。」
そうあったかのように聞こえたかも知れない。ただの想像かも知れない。
両家は連絡を取らなくなった。
彼女の母親は女で一つで育て、働いた。
友達はキャシーの元へと走り寄り、すれ違いざまに手に持っていた本をはたき落とした。
まるで汚い何かを触ったような怪訝な顔をして友達だったヤツはそのまま走り抜けた。
それを目にして僕も走った。
彼女の足元に落ちた本を取り、土を払って、彼女の胸に押し付けた。
彼女は目を伏せて何も言わなかった。
僕も何も言えなかった。
「2」
カウント10 シナミカナ @Shinami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。カウント10の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます