オリジナルinヒューマン

@World06

第1話 朝のルーティン

「ふっ、ふっ、ふっ」


 走り込みの最中ふと、昔誰かに『ストイックなやつ』と言われた事を思い出す。


 小中のミニバスでは自主練を誰よりも長くやってた。親に無理言ってゴールを置いてもらって、家では庭で練習した。そのお陰なのかスタメンに選ばれて、最後は県大会2位まで行った。


 高校に入ってからも性格はさほど変わらなかった。新しく入ったテニス部の練習には欠かさず行く。自主練は時間が許す限りやる。勉強に自信がないから、空いた時間はできるだけ勉強に費やす。

 

 俺はストイックな人間なのかもしれない。でもあくまでそれなりに、だ。

 俺は自分の身の丈なりにしか生きられない。それは自分がいちばんよく知ってる。


「んっんっ……ぷはっ」


 行きつけのコンビニで買ったスポドリを流し込んで、今朝の走り込みを終わりにする。

 Tシャツへと手早く着替えて、汗で濡れた服は軽く絞ってから袋にしまった。


「やべっ、あんま時間なくなったな」


 時間を確認してスマホをポケットに突っ込む。案の定、河川敷の秘密基地に着いたのは高校の始業時間50分前だった。

 近くに行くと基地のドアの前でスマホをイジっていた那野葉なのはが顔を上げた。蛍光色のパーカーは朝日で赤く染まっている。

 

「はい遅刻〜」


 那野葉の後を追う形で基地に入る。


「悪い。雑念があって走り込みのペースが乱れた」

「へぇー、外羽がいはにもそんな人間味あったんだ。意外」

「十年来の付き合いでそれは酷いんじゃないか?」

「ははっ。自分の胸に手ぇ当ててみろー」

 

 軽口を叩きながらも、手早く2人で作業の準備を整えていく。

 

「よーし。そんじゃ今日も頑張りますますかー」


 赤ジャージにレインコート姿に着替えた那野葉が威勢良くナタを振り上げる。

 俺も出来れば掛け声か何か出したかったが、猿ぐつわを付けて椅子に縛られているので出来なかった。


「本日一刀目!」


 袖を捲り上げ剥き出しになった俺の右腕に、勢いよく刃が振り下ろされた。

 頭が一瞬にして痛みの信号で埋め尽くされる。全身の体温が傷口に集まるように感じる。

 これは何度やっても好きになれない。


「やっぱ漫画みたいに一刀両断とはいかないか。おっ、早速治ってきてるね」


 那野葉に言われて腕の傷をのぞいてみる。血と共に黒い泥のような物が溢れ出て、見る間に傷口が塞がっていった。

 今日も、一刀目は異常なしか。


「ふひふぁふぉんふぁ」

「何言ってんのか分かんないけど、次って事ね。了解だよイカれやろー!」


 2刀目。再生。異常なし。

 16刀目。再生。異常なし。

 37刀目。再生。異常なし。

 68刀目。再生。異常なし。

 103刀目。再生。異常なし。


 始業時間10分前。激痛の嵐が止んだ事で今朝の日課が終わった事を知った。

 那野葉のレインコートは俺の血で真っ赤になっていた。那野葉が俺のくつわを外す。


「今更だけど、レインコート毎回新しいの買ってるよな。俺金出そうか?」

「大丈夫大丈夫。私バイトしてるから」


 始業時館5分前。2人で基地を後にする。

 正門で那野葉と別れ、教室に着いたのは始業2分前だった。

 

「毎日毎日、走り込みよく頑張るよな」


 前の席の猿川が呆れ混じりに話しかけてくる。


「1日ぐらい休んでもよくね?」

「んー、多分それはそうなんだよな。自意識の問題ってか……落ち着くのよ」

「朝のルーティンってやつね。今は何やってるんだっけ」

「んー……」


 そんなに色々してるかぁ?

 数学と英語、理科の勉強が20分ずつだろ?

 走り込みが10km。


 それと、腕の切断実験が1時間


「大した事してねぇよ」

「してるって。やっぱテニス部次代エースは違うな」

「ははっ、まぁ


 俺、結構ストイックな男だからさ」

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