モッコ
吉田 晶
開幕
私が社会人になって2年目だったか、3年目だったか、研修のため東北の某県に出かけたことがあった。
いわゆる異業種交流研修というもので、様々な企業に、公務員だの団体職員も混じっていたりする。
さて、毎日の業務に比べれば、研修なんて気楽なもので、課題も含めて18時には終了する。
あとはお約束の親睦会だ。「研修施設」と呼ばれる建物には、だいたい大きな食堂が設置されているから、わざわざ敷地の外にでることなく宴会をすることができる。
研修の出席者には地元出身者が多く、どこか同窓会といった雰囲気があった。
私は、研修の班で一緒だった人の
グループは、自分も入れてだいたい10人弱といったところだったか……。
「おう、いま何時?」「そろそろ9時」「まだまだいけるな!」
「何がまだまだだよ……明日も研修あるんだから、そろそろ解散しようよ」
「そういえばさ、子どもの頃、夜遅くまで起きていると言われなかった?
『モッコ
「ああー、言われた、言われた。なんなんだろうね、あれ?」
「蒙古がなまったモンらしいよ。モンゴルの蒙古」
「モウコって……元寇のこと?あいつら攻めて来たのって九州じゃなかった?」
「ウチの祖先もそうらしいんだけど、ここいらってさ、秀吉の時代に関西にいられなくなった落人が流れてきた場所らしいから、そうやって伝わって来たんじゃないの?」
「ほぇえ、マジでか!?」
そこでAさんが、BさんとCさんに向けて言った。
「なあなあ、俺たちが通っていた小学校に、ノラ犬が入って来たことあったべ」
この三人は同学年で、地元の同じ小学校・中学校・高校に通い、そのまま地元で就職した筋金入りのジモティーズである。
「ああ、あったなあ。すげえ大騒ぎだったけど、あれ、結局捕まったんだろ」
「……捕まるわけねえって。あれ、多分モッコだもん」
「はぁ? どういうこと? 意味わかんね」
「いやさァ……Dっていたでしょ。おぼえてる?」
「Dってだれだっけ?」「6年生のとき転校しちゃったやつ」
「そんなやつ、いたっけ?」「いたよぉ」「おぼえてねえなあ」
「あれ、一緒のクラスになったことあるの、俺だけだったかな?」
Aさんは、BさんとCさんに確認しながら、その時の話をしてくれた――
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