第18話 ヨッシーは花粉症
「オッハー!!」
待ちかねたヨッシーはメガネにマスク姿だった。
「ヨッシーって、ひょっとしてコンタクトだったの?」
目を真っ赤にしたヨッシーは私の言葉を受け止めた。
「そうなんよ~ 花粉ひどくてさあ 目も鼻もグシャグシャ。いっそ覆面でもしたいくらい!」
「それじゃ 誰だかわかんないじゃん」
「あ~!! 冷てえなあ~! 杏だったら声だけで分かってくれると思ったのに~」
「だってヨッシー、今、鼻声だもん」
「グフフフフ、そう? ねっ?! ちょっと色っぽい?」
「う~ん」
「えーっ! じゃ、メガネの理知的なおねえさんとか?」
「う~ん!!」
「なんでぃ! 友達甲斐のないヤツめ!!」
努めて他愛ない話をしているけど…… やっぱりショックだったんだと思う。
軽口を叩きながらもヨッシーの目は“影日向くん”の席を見てるから……
「影っち 今日、来ないのかな~」
「うん! そうだね! きっと また引きこもりだよ」
「そんなこと、無いと思う!」
妙に強く否定されて、どう言えばよいかと戸惑った一瞬、逆にヨッシーが“外”に反応した。
「あっ! パイセン~!!」
その言葉で教室の入口に目をやると、奏センパイは何時になくツカツカと入って来て
「吉井さん!よろしいかしら?」
と二人で出て行ってしまった。
◇◇◇◇◇◇
しばらくしてヨッシーは戻って来た。
目は更にウルウル、鼻はティッシュが手放せないようだ。
私を見るとウルウルの目で聞いて来た。
「杏は花粉症大丈夫?」
「うん。大丈夫みたい」
「杏は、いいなあ…… いいなあ~!……健康で」
そこまで言い掛けて言葉を飲み込まれた。
「―ゴメン!」
それから「私、無神経だ」と黙り込んでしまった。
膝の事だったら気にする事ないのに……
だってあのケガは私自身がやらかしたんだから。
なので
「へえ~!神経ないんだぁ じゃあ、くすぐっても大丈夫だね」
とくすぐり攻撃を仕掛けて……
ふたりでケタケタ笑って“無し”にした。
私って、こういう感じにしかできないのだ。
◇◇◇◇◇◇
部室に向かって歩いていると
奏センパイに待ち伏せされていた。
とは言っても、奏センパイは……ご自分は隠れているつもりでも、目立ってしまっているのだけど……
とにかく、センパイに他の人の目の届かない所まで引っ張り込まれてしまった。
センパイは何だか少し、不機嫌に見える。
「吉井さんはどんな感じに見えた?」
「それは、やっぱり、まだショックなんだと思います」
奏センパイは大きくため息をついた。
「杏ちゃん! アナタは……」
奏センパイも何か言い掛けて言葉を飲み込んでしまう。
「もう、ホントに、この子は、もう!」
とセンパイは私のブレザーの袖を掴んで言う。
センパイから感情をぶつけられて私は戸惑ってしまう。
次の瞬間、センパイの細い両腕が巻き付けて来て、ギューっと抱きしめられた。
「罪作り!」
私はただただ、戸惑うばかりだった……
センパイが腕を緩めて頭を撫でてくれるまで……
第19話へ続く
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