自称白い猫の化身で、正体は厳島の女神じゃなくて残念ね、たぎつ姫よ、と言い張る若い女性と出会う (1)

 こないだ、また、抜け出して愛宕山に登ったのだが、あそこには山上に向かうエレベータがあって、それを使うと放送博物館脇に出るのだが、そのエレベータが、途中からガラス張りになっていて、高所恐怖症の自分にはかなり怖い代物なのだが、つい、楽をしようとして、それを使って、恐る恐る神社の境内まで行ったんだだが、変わった人に会った。二十代半ばの若い女性なんだけど、長い髪をして、落ち着いた感じのなかなかの美人、その女性が、例によって、弁財天社の小さな社に向かって参拝している俺の背後から声をかけてきた。まあ、このときも、「神様、付き合ってください。」などと馬鹿なお願いをして祈っていたが、それを見透かしたように、彼女は、俺に「付き合ってあげてもいいわよ。」などと突然背後から声をかけてきたので、どきっとして振り向いた俺は、その美しい女性に、「えっ、何?」みたいな感じでぽかんとしていた。すると、彼女は、「珍しいお願いね。そんなお願いする人、今までいなかったわ。」などと、言う。まるで、神様みたいな口ぶりだ。

「さよちゃんと付き合いたいらしいけど、私じゃ、だめかしら?私もそんなにわるくないでしょ?」

 ここまで言われると、さすがに、(誰だ、こいつ?)などと思ってしまった私は、無視して、横をすり抜けようかと思った矢先、彼女が機先を制して、

「だめよ、逃げるなんて。せっかく、会いに来てあげたんだから、つきあいなさいよ。」と、俺の前に立ちはだかった。俺は、多少、むっとしたのものの、かろうじて、気持ちを落ち着かせて、

「誰ですか?」と聞き返した。彼女が言うには、

「私ね、白い猫なのよ。時々、見かけるでしょ、白いメス猫。あなた、気に入ってたみたいね。私の体をなでる手が、とっても優しかった。まあ、それは、おいといて、私ね、本当は、たぎつ姫なの。知ってる?」

 自分で自分のことを姫というのも、十分、痛いが、たぎつ姫という響きは、この美しい女性には似合わない感じがした。

「知らない。」

「あら、知らないの?宗像三女神て聞いたことある?」

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