第1話 時差ボケに次ぐ時差ボケ、タイガーとサファイア登場

「おぅ、やっと到着か」

翡翠が、戻ってきたタイガーとサファイアを迎えた。

「サファイアとブラジルから飛んできたんだ。しかも飛行機が遅れた。散々だったんだぞ。空港で野宿だよ」


 そこにシトリンが駆け寄って、

「タイガー、サファイア。久しぶりねー。それでね、私達、これからアルゼンチンよ」

「んはぁ?じゃあなんで俺達を東京に呼ぶんだよ。リマ国際空港で合流の方がよっぽど楽じゃねぇか。俺の時差ボケをなんとかしてくれよぉ……はぁ、でもなぁ、結局今回のミッション、ブラジルでの成果は全く無かったんだがね、ははは」

「まぁまぁタイガー。目的地はリマからだって遠いのよ。ここは一旦作戦会議よ」


 ストーンズメンバー、タイガー。男性。中国奥地が彼の生まれ、パワータイガーアイの守護者。レスラーのような体躯たいくは、並みの人間では倒せない。それもあって、彼は銃を使わない。特に時差ボケには弱い。


 同、サファイア。アメリカ、モンタナ州出身、男性。その名の通り、宝石で有名なサファイアを指す。パワーサファイアの守護者だ。運動能力に長けていて、彼の行動、瞬発力は右に出る者はいないとの評判。



 この東京のアジトは、広いスペースを確保したメンバーズルームが会議室となっている。

モニターやパソコンがいくつも並んでいる。皆は各国と、このメンバーズルームで打ち合わせたり談話したりしている。まぁどのアジトにもあるスペースだ。


 そのメンバーズルームに集まった4人がテーブルを囲んでいる。

そこへゴッドからオンライン通信が入った。

部屋のモニターが立ち上がる。


『やぁ久しぶり諸君。タイガー、サファイア。ブラジルではスティーラーズはどうだったかな?』

 いつもの落ち着いた口調でゴッドが語りかける。


 同じ様に落ち着いた口調でサファイアが答えた。

「報告した通り、結局旅行してきただけのような成果でした。奴らは石に対して本当に見る目がない」

『まぁそう言うな。ブラジルやコロンビアでは、希少なジェイドが眠っているという。日本の翡翠には劣るものの、奴らは大粒のジェイドが目当てだったのだろう』

「民芸品みたいなものに手を加えようとでも考えたのだろうか?……」

「だから俺の言った通りになったじゃないかサファイア。価値のある巨大なジェイドの原石はスティーラーズには判別できないって」

 ドカッと椅子に座るタイガー。


「タイガー、もういいから。次はアルゼンチンの話なの!パワーインカローズを探し出すのよ」

「おいおい、シトリン待ってくれ。俺はマチュピチュを以前にも見てきたぜ。あそこにはストーンは無い。あったのは精巧に削られた巨石ばかりで、俺達が求めてる石は無かった」


 ため息交じりに翡翠が口を開いた。

「いや、タイガーの言う通り。マチュピチュにはパワーインカローズは無い。だが場所はペルーに限らない。多分インカローズの力を知っている者が持っているはずなんだ。インカ帝国時代の末裔から、もしくは石を代々継承されているはず」

「翡翠、今回はペルーに向かうか?遺跡を追いかけても無駄だと思うんだが……。多分、古くからの家系、またそのたぐいだろうさ」


 翡翠はこめかみをポリポリしながら答える。

「そうだなサファイア。その線で探すのが良さそうだ。アルゼンチンの前にペルーに向かうのも有りか。言葉に困りそうだ」

「私はボリビアで皆にパワーストーンの話を聞かされたけど、あっちではポルトガル語も大丈夫なのよ。だから私はオッケー」

「俺達ゃ喉にうっとおしい変声翻訳テープを付けてなきゃ会話にならん……。またそっちに行くのか」

 明らかに嫌そうな表情を浮かべるタイガー。


「ではタイガーは別の国に行くか?いずれにせよ変声翻訳テープは必須なんだが?」

「分かった。分かったよ。若い頃にもっと語学を勉強すればこんな事にはならなかったな。行くよ、行くって南米まで」


 変声翻訳テープ。ストーンズが創り出したフィルム状の精密機械。

超小型回路により発した言葉を翻訳して、マイクロスピーカーで相手に伝える。相手の言葉を聞き取り翻訳すると、同期したイヤホンから翻訳されて聞こえてくる仕組みだ。


「あー、そっかー。ねぇタイガー。私と行動する?通訳込みで。なんならカップルって設定でもいいわよ」

「なんか高く付きそうな予感しかしない……」


 立ち上がったモニターからゴッドの声。

『場所はペルー及びアルゼンチン。インカ帝国末裔、インカローズを持つ者を捜索。その者はストーンズの仲間に加わってもらうよう説得すること。以上だ』


 モニターが切れると、ストーンズのロゴマークに画面が変わった。


「ゴッドの思惑は正しいと思う。インカのルーツから探るのが賢明」

「あぁサファイア。その線は有力だと思う、皆頼んだよ。俺達はそれぞれ分散して捜索する」

「了解、翡翠。タイガー、またいずれ共に行動しよう」

「はいはい。……皆さんの仰せの通りに」

「いじけない いじけないタイガー。私とカップル役で観光を装って捜索なんて最高でしょ?」

「バカ言え。シトリンと一緒じゃ酒も不味くなる」

「あら失礼ね。酒を飲まなきゃ可愛いもんよタイガー」


 天を仰ぐタイガー。

(酒豪には付き合えん)


 タイガーが思う通り、シトリンは酒は強いが酔いが回ると質(たち)が悪い。

過去に経験済みのタイガーだった。

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