Grüß Hitler von mir

秋野 公一

ヒトラーによろしく

猫を落とした。

私は家の窓から猫を落とした。

猫は死ななかった。


私は彼女に恋をした。

私は高校2年生のとき、彼女に出会った。

私は彼女の眼差しに惚れてしまった。

私は彼女に恋をした。


猫を殴った。

生意気な目で私を見ていたから。

殴った。


私は彼女を目で追った。


猫を殴った。


私は彼女を目で追った。


また猫を殴った。


私の好きな女性には、彼氏がいた。


私は家に帰った。

今年で28になる。

地方公務員として地道に働き、一人で暮らしている。

家族は母親が一人だった。


その女性は高校を卒業し、彼氏の子を孕んだ。


脳が壊れた。


次は強めに殴った。

最近は私をみるなり逃げ出すようになった。


また殴った。


猫は女性的だ。

つぶらな瞳にすらしとした姿、そして世界を自分の意のままに操れると思っているから。


また殴った。

猫はニャアニャアと鳴いている。

たまにンニァ!とも鳴く。


僕はカニバリズムに関心があった。

彼女のあの健康的な、あの褐色なふくらはぎを食べてみたかった。


また殴った。

今度は強く殴った。

猫はビクビクと反応している。


僕は猫を殺した。

殺そうと思って殺したわけではなく、殴り続けていたら死んでしまった。


僕はこの猫の死を無駄にしないため。

料理をした。

猫をバラバラに解体して、その肉を食べた。

骨は食べ用がなかったので、隣の家の庭に投げ入れた。


僕は、皿やら何やらを片付けた。

ふと卓上にある家族写真に目をやると、母と目があった。


母。女で一つで僕を育ててくれた母。

優しい目で僕を信じてくれてた母。


ふと殺した猫に申し訳が立たなくなった。

死ぬ必要のなかった猫を殺した。


僕は怖くなった。

猫を殺した罪で裁かれるのが。

そして僕を信じてくれていた母を裏切るのが。


自首はありえない。

自殺もありえない。


僕はしばらく考えた挙句、何もしないことにした。

猫を食べた男が歴史の狭間に消える日まで、生きることにした。

僕は事の顛末をノートに綴り、そしてペンを置いた。

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