白癡美

せなみ

1

融通が効かず不器用

口も悪く無愛想

昔死にかけたことから死が怖い


地味目の着物を着崩して

西洋の靴が好き

敬語崩れ



初夏

一週間に及ぶ気持ちのいいくらいの晴れは人間界を焼くには充分すぎるくらいの暑さだった。



男「俺はその日、確かに死のうとしていたのだ」

女「世間の男の人ってすぐそうやって言葉にして」


狭い畳の上で草臥れた花のように横たわり笑う


男「お前は言葉が嫌いかい?」

女「ええ私は文字なんてちっとも読めませんよ」

男「なら今度本を持ってくる。二人で読もう」

女「じやあ次も呼んでくださいね」

男「さてどうしようかな」

女「全く素直じゃないんですから」



白癡美



外を出る頃にはすっかり日も暮れていた。

少しだけ濡れた土瀝青が女の西洋靴に反射して僅かに紫がかっている。



男「お前、そっちに駅は無いぞ」

女「でも看板にはみぎって」

男「それは左だ」

女「ああ……」

男「やはり泊まっていくか?」

女「それじゃあ悪いですから。私、なんにも返せるものがないですし」

男「返せなくたって俺は構わないよ」

女「……私こんな商売してるでしょう?だからね、なるたけ綺麗でいたいんです」

男「そういってるが、婆が怖くないのか」

女「そりゃ立派な方ではないですけど、人を食べたりなんてしませんし」

男「人喰いだって驚くものかよ」

女「貴方、あの人が怖いんですね」

男「怖いものか」

女「では意気地無しかしら?」

男「ふん……」

女「私、頼られるのは好きなんです」

男「俺が婆が怖いから殺してくれと言ったらそうするのか」

女「さあどうなんでしょうか。みぎもひだりも分からないものですから……」



風に乗って仄かに杏仁豆腐の香り。

沈んでいく夕日に女が重なって橙色の塊になった。

男は電柱にもたれかかり腕をさする。

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白癡美 せなみ @senami0100

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