百鬼夜行(仮題)
平井籾
罠にかかったキツネを助ける
正規ルートか、裏ルートか。
一瞬の判断が結果を分かつだろう。
時間がない。
そう。時間がない。
あと10分で朝の
答えはとっくに決まっている。
ノーマルな道を進んだところで遅刻は免れない。ならば、一か八かのアブノーマルで行くしかない。
(上手く行けばギリ間に合う…かもしれない)
いつもはぐるっとまわって正門から登校。それを小山を越えて裏門から入れば距離的には1/4だ。
今、水影の目の前に、迷宮ダンジョンの入口よろしく裏山遊歩道入口が口を開けている。
学校裏門に続く道なのか保証はない。
けど行くしかない。
「よしっ!!」
自分にカツをいれて乗り込んだ水影だったが、ほんの10歩ほどでバテた。
「なんなのこれ。エグい角度の階段ばっかじゃんっ!」
入口はおじいちゃんの散歩コース的平和な様相を漂わせていたくせに、すぐに右肩上がりの急斜面に様変わり。しかも、整備されてなくて
完全にハズレルートだった。
「まあ、分かってたけどね。モブの私が一発逆転狙ったところで劇的な勝利はこないってさ」
このスピードなら進んでも戻っても遅刻は確定。
迷いながらも惰性で足を進めていると、突然視線の先に鳥居がみえた。
「そういえば、入り口にもなんちゃら神社って書いてたっけ」
ゼイゼイ言いながら大きな朱色の鳥居をくぐると、たどり着いた小山の頂上には思ったより立派な境内が広がっていた。
参道の両端に灯籠や狛犬、その奥に小さいけど立派な社殿。ここまでの道程の荒れ具合に比べると、境内はちゃんと人の手によって整備されている雰囲気だ。
それでも、早朝の神社には人っ子一人いない。
薄く朝霧がかかっていて、どこか浮き世離れした厳かな空気を演出していた。
「あ、水ちょっと飲ませてもらおうかな…」
清潔そうなので安心して、水影は手水舎に近づいた。うろ覚えながら手を清め、柏手をうち、念の為心の中で神様にひとこと断りをいれた。
そして手にとった水をほんの少し口に含む。
カラカラに乾いた身体に冷たい水が染み渡るようだった。
「あぁ〜生き返ったぁ」
反対方向には学校側に下る階段がみえる。意外とここから近そうだ。階段がボロくて急だったことをのぞけば、近道なのは間違ってなかったのかもしれない。
気を取り直して先に進もうとして、そして…フリーズした。
手水舎の奥、天に向かって伸びる御神木の根元に何か蠢くものがいる。
「…え?…キツネ?」
お手本のような2度見をしてしまった。
見間違いかと思って目をこする。けどやっぱりいる。
そこには、罠にかかったキツネがいた。
なぜか油揚げを咥えていて、鋭い歯のついた古典的な罠が右足に食いこんでいる。住宅街ではあまり見ないタイプの生き物で、現代社会ではあまり遭遇しないシチュエーション。
なにこれ?まんが日本昔話?
触れては行けない気がして(時間もないし)立ち去ろうとすると、キツネは油揚げをくわえたまま切なそうにくーんくーんと鳴き始めた。
鳴き方はなんだか小型犬のようだ。
水影が立ち止まり振り返ると、おりこうにおすわりして尻尾を振る。
先に進もうとするとくーんとアプローチしてくる。
「なぁに?おまえ、油揚げにつられて罠にかかったの?」
話しかけると狂喜乱舞。さも嬉しそうに飛び跳ねるもんだから、罠が足に食い込んで血がポタポタ地面に落ちた。
「待ちなよ、暴れちゃダメだって」
水影が慌てて静止すると、キツネはウルウルした目で見つめてくる。
“助けて…助けてくれるんだよね?”と訴えている。
完全に自分の可愛さとその使い道をを知ってるヤツの目だ。
ついに水影は降参した。
「わかったって、
ふいにキツネが右方向に流し目をした(ようにみえた)。つられて右側を見ると、手水舎の裏側に『罠の外し方』とポスターが貼ってある。
なんなんだ。この展開は。
「え?このボタン押せばいいの?」
肯定するようにキツネは大きな尻尾を1振り。
しかし、近くに設置されていたボタンはなんだかクイズ番組の早押し系のそれっぽくて。重い金属製の罠に比べて、軽いプラスチック性のボタンは明らかに別界隈の物体。2つが繋がっているとは考え難い。
「え?まじで?押していいのコレ?なんかのドッキリじゃなくて??」
ウルウル目をさらに潤ませた(ように見える)キツネに促されて、水影は恐る恐るボタンを押した。
ガシャン
重い音がして、見ると、本当に罠が外れている。
「なんで!?」
キツネは礼を言うように何度か振り返り、少し足を引きずりながらも、木陰の奥に元気に去っていった。
文字通り、キツネにつままれたような出来事だった。
百鬼夜行(仮題) 平井籾 @tairaimomi
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