ある魔女は涙を流さない

第1話 魔法がある世界

鳥のさえずりが響く朝、私ことイヴ・ソーサリーは重い瞼を開け、起床する。ここは地方都市イオス。私が住んでいる町だ。

 私服に着替え、歯を磨き、顔を洗い、髪を整え、そして朝ごはんを食べて学校に登校する。そんな当たり前の毎日が私の日常だった。この世界には魔法が存在する。この世界の魔法というと後から身につくのではなく天性の力、つまり人間の生まれつき宿った力なのだ。しかし中には魔法を持たず生まれてくる場合ももちろんある。

 そして必然的に魔法を持つ人間と魔法を持たない人間で分類されるのだ。しかし人類はいがみ合うことなく互いに協力し合って仲良く暮らしていた。


「ふぁぁ、ねみぃ。」



 私は大きくあくびをしながらイチゴジャムが塗られた食パンとコーヒーをもって食卓に座る。すると、肩に白いフクロウが止まってきた。私はその子を優しく撫でる。この子の         

名前はピグルス。私の使い魔であり、私に唯一残された家族だ。

 それともう一人…。私はある一つの写真に目をやる。その写真には小さい私と老婆が移っていた。


「師匠…」


 私のただ一人の親であり、魔法の師匠であり、そして、家族だった人だ。今はもうこの世にはいないが、私は師匠とのあの幸せな日々は忘れないだろう。

 けれどどちらとも私の血の繋がった家族ではない。そうなると私と血の繋がった家族はどうなったのだろうか。時々そんなことを考えて結局思い出せず無駄な時間を過ごすのがお約束だ。


「私って、なんなんだろう」


「ホゥ?」


 ピグルスの声にハッとしてすぐに笑顔を浮かべる。


「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


それでも私を心配しているのかピグルスは体を寄せてきた。


「おぉーよしよし、ピグルスは甘えんぼさんだねぇ」


そうこうしていると学校の時間がやってきた。すぐに登校しないと遅刻しそうな時間だった。私は急いで支度して家を飛びだす。そうしてなんとか時間ギリギリで登校することができた。

 私は息を切らしながら自分の教室に行き席に座る。もちろんピグルスも一緒だ。ピグルスは私の肩に乗っている。私の通う学校は言うなればごく普通の学校だ。この世界には魔法をもつ人間がいる。そうなれば魔法の専門学校があると思うだろうが、…もちろんあるぞ!しかし私はというと普通の人間が通う普通の学校に入学した。

 魔法をもつ人間は魔法の専門学校に通うみたいな固定観念があるかもしれないが、普通に魔法をもつ人間でも普通の学校に通えたりする。だから私の通う学校には多少の魔法をもつ人間がいる。私もその一人だが私は自分が魔法を使えることを隠しながら通っていた。

 理由は…、いざというときの保険だ。なんかすごい理由かと思ったろ?チッチッチッ、残念。すごくどうでもいい理由なんだよなぁ。


「ウフフふ、」


「なによ、朝から不気味な笑い方して」


私が一人で笑っていると声が聞こえた。声がした方に振り向くと私のただ一人の友達で親友のココがいた。

 あれ?なぜだ。なんか自分で言ってて悲しいぞ?


「なにおう!17のかわいいかわいい乙女にむかって不気味とはなんだ!不気味とは!」


「かわいいかわいい乙女は朝からあんな笑い方しないっての」


 ココはやれやれ…といった様子で答える。

ちなみにココは魔法が使えない。ごく普通の人間だ。


「ピグルスちゃん!おはよう!」

ココは私の肩に乗っているピグルスにもあいさつをする。


「あんた、そういえばちゃんと宿題やってきたんでしょうね。」


「え?…あ、」


いきなり聞かれた質問に素っ頓狂な声が出たが、その後すぐに間抜けな声が発せられる。


「はぁ。まったく。まぁ今に始まったことじゃないから別にいいけど、」


ココは呆れてため息をつく


「あの、ココさま。宿題、みせてくれませんかぁ?」


 私はいつものようにココにお願いする。しかし返ってくる言葉は。


「そんなもんダメに決まってんでしょ!」


「ですよねぇ~」


 予想していた言葉が勢いよく返ってきた。そうしてココはなぜかプンプンしながら自分の席に戻っていく。はぁ、今日も居残りかぁ。私は今日の放課後を憂鬱な気持ちで授業を受けるのだった。


「ただいまぁ~」


 私は疲れた体をソファに預ける。フカフカで気持ちよくてすぐに瞼が重くなってきた。


「ピグルス、悪いけど少し仮眠とるわぁ。寝込み襲うんじゃないぞ?」


「ホゥ?」


そうして私の意識はどんどんと落ちていくのだった。



 夢を見ていた。そこには楽しそうにはしゃぐ姉妹とそれを微笑ましそうに見守る夫婦の姿が移っていた。なぜだろう。初めて見る夢のはずが初めてじゃない気がした。不思議と既視感すら覚えた。

 そして妹らしき人物が大きな声で言う。


「お姉ちゃん!」


そこで私は目を開く。


「今のは、夢…?」


 今私が見た夢はたしかに夢だった。だけど夢とは思えないほど記憶が鮮明に残っており、そしてなぜだか懐かしい気持ちになっていた。

 私は困惑しながらも何気なくテレビをつける。するとそこにはあの有名な"六賢者"の一人「天文の魔女」ことアスナが映っていた。

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