第18話 王家会議、開幕! 偽証 vs. 暴露合戦①
そしてついに、王家会議の当日がやってきてしまった。朝早くから公爵家では落ち着かない空気が漂い、家族総出で支度を進めるものだから、やたらと騒がしくなっている。私はというと、ノエルに着付けを任せながら心中で「どうしてこうも波乱の場が続くのかしら」と大きく嘆息をついていた。
「お嬢様、今日は会議の場なので過度なドレスアップは控えめに……と言われても、お嬢様の華やかさは隠せませんが!」
「ありがとう、ノエル。そういった派手さで注目を集めたくないのは本音だけど、どうせ今回は派手な騒動になる予感しかしないのよね」
こんなやり取りをしながら、ぎゅっとコルセットを締め付けるノエルに少しだけ顔をしかめる。そこへレオンハルト兄さまが部屋の扉を開けて乱入する。
「リリエッタ、準備はいいか? もう馬車の用意も済んだ。あとは父上を抑え込んでから出発するだけだ」
「兄さま、何を言ってるの。出発より先に父さまを抑え込まなきゃいけない状況ってどういう……」
訊ねるまでもなく、廊下の向こうでヴォルフガングが「さあ王太子をぶちのめす日は来たな!」と剣を振り回している気配が伝わってきた。声と金属音が妙に物騒で、私は顔をしかめる。まったく、会議の場に武器を振り回していくなんて聞いたことがない。兄さまが必死に止めるのも、いつもの光景ではあるけれど。
「……はあ、うちって味方のほうが敵よりやばいんじゃないかしら。ノエル、髪飾りはこれくらいでいいわ。もう出なきゃ」
「はい、お嬢様。私も同伴しますので、何かあっても安心してくださいね!」
ノエルの輝く笑顔に背中を押され、私も覚悟を決めて支度を終える。外へ出ると、激昂気味の父がレオンハルト兄さまに腕を掴まれている最中で、なんとか“剣を下げろ”と説得されているところだった。周囲の使用人たちがあっけにとられて見守る姿が痛々しい。
「父さま、こんなところで暴れないで! 王家会議はあくまでも正式な場なのよ。剣を抜いたら即座に大問題でしょ!」
「むう、わしはただ“もしものとき”に備えているだけだ。あの王太子がまた娘を傷つけようとしたらどうする!」
「……気持ちはありがたいけど、そこまで過激にならないでよ。王宮に着いたら剣は置いてくださいね!」
情けない顔で父を説得していると、ようやく彼が「仕方あるまい……」と折れたそぶりを見せる。ノエルは「よかったです!」と拍手しそうな勢いだが、正直まだ油断はできない。
どうにか落ち着いた父と兄を馬車に乗せ、私も後に続く。会議が開かれる王宮の大ホールへ向かう馬車の中、レオンハルト兄さまは窓の外を睨みながらブツブツと物騒なことを言っていた。
「もし王太子が何か言いがかりをつけてきたら容赦しないからな。あのコーデリアまでいるなら、こっちも大声で返り討ちにしてやる」
「返り討ちって……兄さま、少しは冷静にお願い。私がまた恥をかいちゃうでしょう」
「わかってるわかってる。おまえが嫌がるなら血は流さないように配慮するさ。だが口では徹底的に叩きのめす」
父と兄が奇妙な意気投合をしそうなので、私は「やれやれ」と首を振ってため息をつく。ノエルが隣で「お嬢様、大丈夫ですよ!」と元気づけてくれているが、それが逆に「ああ、また始まるのね」と重みを感じてしまう。
そんなこんなで王宮へ到着してみると、門番たちが既に緊張した面持ちで出迎えている。どうやら大勢の貴族や重臣が呼び出されているようで、正門前は馬車の行列ができていた。馬車を降りた瞬間、私はぎゅっとドレスの裾を握りしめ、ホールへ続く階段を見上げる。
「うわあ……また大人数の前でゴタゴタしそうね。私、できれば静観したいのに」
「何言ってるんだ、妹よ。ここで敵が出るなら叩くのが当然だろう。気を抜くなよ」
兄がやる気満々な横で、父は「どうせ王太子なんぞ腰抜けに決まってるわ」と肩をすくめている。そこの認識が甘いと、逆に痛い目を見る可能性もあるんだけど……。私は心中でツッコミを入れつつ、大ホールへの門をくぐった。
ホール内部は厳粛な雰囲気を保とうとしているが、どこかピリピリした空気が漂っている。貴族や重臣が列を作り、壇上では国王フレデリックが眠そうに杖を持っているのが見える。その隣にはセバスティアンが涼しげな顔で控えていて、私と視線が合った瞬間、ニヤリと笑われたのを見て、無性に恥ずかしくなる。
「な、なんであの人、こんなに楽しそうなのよ……」
ぼそっと呟いたところ、ノエルが「あ、殿下がこちらを見てますよ!」とウキウキ声を出す。マズい、兄さまと父が気づいたらまた騒ぎになる……と焦っていたら、レオンハルト兄さまは幸いにもセバスティアンではなく王太子のほうへ目を向けていた。
「……あいつか。やけに不敵な笑みを浮かべてるな、あの王太子」
「兄さま、落ち着いて。それ以上近づくと怒鳴り合いが始まりそうだから、このままこっちにいて。ノエルも無闇に突っ込みに行かないでね」
すると、場内のざわめきが大きくなり、王太子アルフレッドとコーデリアがホールの奥から姿を現した。二人とも妙に胸を張っていて、どう見ても普段以上に自信たっぷりな雰囲気を漂わせている。私が「ああ、やっぱり…」と嫌な気配を感じる一方、ノエルは「わあ、やる気満々ですね」と面白がってる様子だ。
「殿下、あんな顔して何を企んでるんだ? まさか“無実の証明”とかいう馬鹿げた計画をやるつもりかしら」
「そんなわけないでしょ、兄さま……たぶん、それを本気でやるんでしょうね」
コーデリアと王太子が私のほうをチラと見て、何かヒソヒソ言い合っている姿が目に映る。その不敵な笑みを見た瞬間、私はゾッと背筋が寒くなる。これまでにもコーデリアの空回りで痛い目を見た経験があるけれど、今回は王太子まで全力で加わっているのだから、始まる前から嫌な予感しかない。
「よし……もう腹をくくるしかないわね。王太子とコーデリアが仕掛けるなら受けて立つわ。セバスティアンがどこまで助力してくれるのかもわからないけど……」
「リリエッタ、あまり無理をするな。最悪の場合、俺や父上が殴り込みをかけて――」
「しないで! 真面目にやめて、それだけは」
私は兄に鉄のような口調で釘を刺す。ノエルも「あの、お嬢様が嫌がるなら辞退ですよ!」と兄さまを牽制し、なんとか物理的衝突を回避している。客席に目を向ければ、すでに多くの貴族たちが着席していて、あちこちでヒソヒソ声が交わされている。どうせ皆、“今度はどんな騒ぎが起きるんだ”という興味で集まっているのだろう。
「はあ……なんでこんなにみんなワクワクしてるの。私、ただ平和に過ごしたいだけなのに」
王太子の視線とぶつかった瞬間、彼はうっすら薄笑いを浮かべ、コーデリアと顔を見合わせる。私はその光景を見て、思わず頭を抱えたくなる。やはり何か仕掛けてくるのは確実――私を“捏造犯”に仕立てる気かもしれない。だが、“もしかしたら失敗して自爆してくれるかも”という微かな期待も捨てきれない。
壇上には王国の重臣たちがずらりと並び、国王フレデリックが渋い顔(眠そうな顔?)でそこに鎮座している。隣のセバスティアンが「父上、始めましょうか」と囁いたのが見え、そこから場内がざわつき始める。どうやら会議が正式に開幕するらしい。
「さて、始まるわね……またとんでもない一日になりそうだわ」
「大丈夫ですよ、お嬢様! もし殿下とコーデリア様が暴走したら、その隙に一気に反撃です!」
「いやいや、できれば静かに終わりたいんだけど……ま、どの道そうはいかないか」
深いため息をつきながら、私は兄と父を連れて席へ着く。公爵家としては最前列に近い位置を確保するのが当然だが、それだけ注目も集まる場所だ。ここで王太子とコーデリアの“偽証劇”が始まると想像しただけで頭痛がする。
「まあ、いいわ。どうせもう逃げられないなら、派手にやり返してやるまでよ……」
意を決して周囲を見回す。セバスティアンは相変わらず涼しい顔で客席の一部に立ち、私を見てニヤリと笑う。そこから伝わってくるのは「楽しみだな」という無責任な意志――でも、私はそれを見て少し安心している自分に気づく。どんな形であれ、あの男がバックにいるなら、変な詰み方はしないはず……そう信じたい。
こうして王家会議が始まる直前、私はさらに気を引き締める。中央では国王フレデリックがまた眠そうに杖をトントンと叩きつつ、いつものように「さて、やるぞ」とだけぼそりと呟いている。ああ、絶対に波乱が起こる。だが、もう逃げ場はない。
「はあ、次はどんな騒動になるのかしら……。もう観念して、なるようになれって感じね」
私は最後にノエルと目を合わせ、互いに「頑張りましょう!」と微笑み合う。そして、スッと背筋を伸ばして席に沈む。コーデリアと王太子の不敵な笑顔に冷や汗をかきながら、同時に「私をなめるなよ」と心中で呟いた。――始まる大乱戦の開幕に備えて、深い深い呼吸をひとつ。
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