第17話 逆転を狙う王太子 vs. 公爵家の防衛戦①
仄暗い照明が照らす室内の一角で、王太子アルフレッドが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。対面にいるコーデリア・フローランは、あくまで気取った態度を崩さないが、その目にはぎらぎらとした執念が宿っている。
その二人を取り巻くように、いかにも怪しげな数名の協力者たちが控えていて、一人がテーブルに簡素な地図と書類を広げていた。
「殿下、コーデリア様、まずこちらをご覧くださいませ。王家会議当日の流れと、そこに合わせた我々の動きをまとめております」
協力者モブがそう言って地図を指し示すが、アルフレッドは「ふん」と鼻で笑って手を払いのける。どうやら気に入らないのか、目の下にはクマが浮かび、やや苛立ちを見せている。
「そんな紙切れを見せられてもな。オレはあのリリエッタを見返したいだけなんだよ。父上に失望されても、あいつらを道連れにすればオレの勝ちだろ」
「殿下、その言い方では少し誤解を招きませんか? 私たちは“公爵家と第二王子を糾弾する場”を作り、そのうえで偽の証拠――いえ、彼らの裏を引きずり出す手を使うつもりですわ。そこを取り違えるとすべて台無しになります」
コーデリアが優雅な身振りで言い添えると、アルフレッドは機嫌悪そうに腕を組んだ。どうにも彼の頭の中には「オレを悪者にしたリリエッタめ、絶対に許さん」という思いが渦巻いているらしく、肝心の計画の細部にはあまり興味がなさそうだ。
「そもそもさ、コーデリア、おまえが言う“偽の証拠”ってどれだけ信用できるんだ? 公爵家は強大だし、第二王子セバスティアンなんてやつも絡んでるだろ? 下手したらまたオレを笑いものにするだけじゃないのか?」
「殿下、私が手を回す以上、完璧なシナリオに決まっていますわ。それに公爵家と第二王子といっても、あれだけ自分たちの影響力を誇示していて、裏の弱点がないはずがありません。そこを私が巧みに突きますので、殿下は堂々と“被害者の王太子”を演じていただければよろしいんです」
「はあ……もうこうなったら何でもいい。オレを侮辱した連中を一網打尽にしたいし、あいつらにオレの恐ろしさを思い知らせるんだ。セバスティアンも気に入らないし、あのリリエッタだってオレに謝らせてやる!」
アルフレッドが声を張り上げるのを見て、コーデリアは頬に浮かび上がる笑みを隠そうともせず、「殿下、そうですわ!」と調子を合わせる。正直、彼女の内心は「この人、やっぱりちょっと頭が足りない」と苦笑いしているのだが、今はそんな考えを表に出すわけにはいかない。
「殿下が復活を遂げて、謹慎なんか吹き飛ばせば、国中の人々は驚くでしょうね。あの舞踏会で殿下が見せた姿とは真逆の、凛々しい王太子様をお見せすればいいんですわ。さしずめ“真実を偽造”してリリエッタを悪者に仕立てる形で」
「そうそう、それが聞きたかったんだよ。オレをバカにしたあの生意気な娘も、公爵家もひれ伏すことになるってわけだ。コーデリア、おまえ案外使えるじゃないか。失敗はするなよ?」
「もちろん、絶対に失敗なんていたしませんとも。今回こそ私だって自分の地位を上げるため、本気で動いているんです。それに、第二王子だって裏で何かしてるとは思いますが、所詮は殿下ほどの正統性はないわ」
自信満々に語るコーデリアに、協力者モブが申し訳なさそうに手を挙げる。どうやら一言申し上げたいことがあるらしい。
「あ、あの、コーデリア様、殿下……。確かに“無実”を証明する場を作るというのは分かりますが、本当に成功するのでしょうか? 公爵家の証拠はかなり具体的でしたし、第二王子も油断ならないという話を……」
「なによ、あなた。まさか私を疑っているの? 公爵家が出した証拠なんて、裏を取れば怪しい部分も多いはず。そこを突いてしまえば、逆にあちらが捏造したと見なされるかもしれませんでしょ?」
コーデリアがきっと協力者を睨む。その熱量に気圧されたモブは「失礼しました!」と背筋を伸ばし、まだ言いたげな顔を引っ込めるしかない。
アルフレッドは相変わらず「あいつらがオレをバカにしたのが許せない」と繰り返すばかりで、話の細かい筋を追う気はないらしい。それでも“やる気だけ”は底なしに湧いてくるようで、座り込んだまま拳を握りしめている。
「コーデリア、とにかく派手にやれよ。オレが兄弟であるセバスティアンに勝つためには、父上や周囲を納得させる確固たる“演出”が必要だ。おまえが“舞踏会”みたいな華やかな場を仕立てても構わないからな」
「殿下、ご安心ください。今度は舞踏会のような不安定なイベントではありません。王家会議が開かれるんですから、そこを利用してリリエッタや第二王子を一気に叩き潰すのですわ。これほど公式の場はありませんもの」
「王家会議……ああ、なんだか父上がまた思いついたようだな。なら好都合だ。オレの無実を証明して、リリエッタたちを罪人にする舞台として最適じゃないか!」
アルフレッドがハイテンションで椅子から立ち上がる。それを間近で見上げたコーデリアは、内心「ほんと、この人お単純……」と思いつつも、微笑を浮かべる。ここで王太子のテンションを下げても仕方ない。むしろこれだけ単純な彼だからこそ、自分の野心を実現しやすいのだ。
「そうです。殿下は自信を持ってください。公文書には“謹慎中の殿下を改めて裁く”とありましたが、それも逆手に取れば良いんです。捏造されていたのは公爵家のほうで、殿下はそもそも罪に問われるべきでなかった、と主張すれば……」
「なるほどなあ。確かに周囲を黙らせるには、こっちもド派手に反論してやるしかないわけか。はは、そうやってみると、舞踏会でオレが貶められたのは逆にチャンスかもしれないな」
王太子の目には怪しい光が宿り始める。コーデリアとしては、これで十分に殿下を“その気”にさせることができたと手応えを感じているが、彼女は相変わらず無駄に高いテンションで話を続ける。
「公爵家も第二王子も、私たちの策に嵌められるわ。殿下、ご安心を。今度こそリリエッタは苦しむでしょうし、殿下の名誉は見事に回復されるはずです!」
「よし、頼もしいじゃないか。おまえがこんなに使える娘とは……ええい、うじうじしてたオレが馬鹿みたいだ。……そっか、もうオレは負けてないんだよな? うん、そうだ、今に見てろよ!」
アルフレッドは大きく両手を広げ、まるで王座に戻ったかのような態度で笑みを浮かべている。コーデリアはそんな彼を横目で見て、小さく得意げに頷く。
対面の協力者モブが小声で「こんなの本当に成功するんですか……?」と呟いているが、二人の耳には届かない様子だ。実際、プランは穴だらけだし、敵は公爵家と第二王子、それにリリエッタという“当事者”まで勢揃い。成功の匂いは限りなくゼロに近い。
「よし、もう一度おさらいするぞ、コーデリア。最初に王家会議の場でオレが――」
「はい、そのとき私は証拠を提示するフリをして……それで公爵家が捏造を行ったと言いきります。殿下は毅然とした態度で『すべてはリリエッタの策略だった』と表明なさって……」
「ふはは、あいつらの困る顔が目に浮かぶぜ。見てろよ、今度こそオレの逆襲だ!」
こんなやり取りを脇で聞かされる協力者モブは、思わずため息をつく。どう考えても無茶な計画だが、二人は手ごたえありげに盛り上がっている。本当に大丈夫なのか、と心配するのも馬鹿らしくなるほど、二人とも“勝利を確信”しているかのようだ。
こうして王太子アルフレッドとコーデリアは、王家会議という正式な舞台で派手な逆転劇を目論む。それがまったく成功しそうになくても、彼らには分からない。自信満々にメモを取り、仲間へ指示を飛ばす姿は、一種の喜劇とも言えそうだった。
「次こそは、あの公爵令嬢の泣き顔が見られますわ! 第二王子も一緒に叩き落としてしまいましょう! 今こそ殿下の真の力を示すのですわ!」
「おお、いいねえ! オレの本気を見せつけてやる。もう誰にもバカにさせないんだから!」
部屋を満たす二人の声は、まるで全てが上手くいくと思い込んでいる幼稚園児のような無邪気さを孕んでいる。協力者モブは最後まで「本当に大丈夫ですか……?」と呟きながら、書類にメモを取っていたが、その声が大きくなることはなかった。
――こうして、コーデリアと王太子の企みは華やかに(当人比で)完成へと近づく。あまりにもズレた思考の二人が、今度こそ大逆転を果たすと信じて疑わない様子は、外から見れば破滅の道にしか思えない。それでも彼らは暴走を加速させるのだから、混乱が待ち受けるのは確実だった。
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