第16話 国王主催の“真相究明”第二幕!?③

 翌朝。いつものようにサロンで紅茶をすすっていると、ノエルが手に小さな封筒を持って入ってきた。普段はハツラツとした彼女の顔が、どこか緊張感を帯びているのが気になる。

「お嬢様、こちらが先ほど届いた手紙なんです。差出人は、なんと第二王子殿下……!」

「セバスティアン……? また何の用かしら」


 私は紅茶をテーブルに置いて、ノエルから手紙を受け取る。封を開けると、セバスティアン特有の美しく整った筆跡が私の目に飛び込んできた。


「“兄は最後の賭けに出るようだ。もし協力が必要なら声をかけろ。お前の復讐にも役立つはずだ”――か。相変わらず、何を考えているのか分からない物言いね」

「殿下、お嬢様とそこまで深い仲でもないのに、妙に親切な感じがしますね。やはり裏があるのでしょうか……?」


 ノエルが不安げに眉をひそめる。私だって、セバスティアンが“心からの親切心”でこんな手紙を送ってくるとは思えない。彼にとって王太子は邪魔であり、コーデリアの暗躍も面白がっているように見える。私と組むことで何か狙いがあるのだろう。


「『兄は最後の賭けに出る』……やっぱり王太子が王家会議で何か企んでるのは確実っぽいわね。コーデリアも絡んでるのはほぼ間違いないし、正直、嫌な予感しかしないわ」

「もし殿下とコーデリア様が組んでいるのなら……やはりお嬢様にとって危険ですね。そこへきて第二王子殿下のこの手紙。協力すれば、何か防げる可能性はあるんでしょうか」


 ノエルの問いかけに、私は長い息をつく。セバスティアンは私を手玉に取りたいのか、あるいは王太子とコーデリアの馬鹿げた企みを潰すために私を利用したいのか――どのみち、彼の意図は自己都合だと考えるのが自然だ。しかし、嫌な事態を回避するには、彼の助力が役立つかもしれないというのも事実。


「正直言って、セバスティアンが味方に回るなら心強いわ。でも、彼を信じるっていうのもかなりリスキーよね。利用されるだけ利用されて、あとで切り捨てられるかもしれないし」

「でもお嬢様、もし殿下とコーデリア様が合流しているのなら、今度の王家会議は確実に波乱になりますよ? 公爵家だけで対処するより、あちらの動向に詳しいセバスティアン殿下が協力してくださるなら、それも悪くない気が……」


 ノエルがまともな意見を言うたびに、私は苦笑する。普段は妙に暴走気味なのに、こういうときだけ鋭くなるんだから困るのだ。しかし、それが私の胸中の葛藤を代弁しているのも事実。


「うーん……分かってるわ。兄さまや父さまは『全部ぶっ潰す!』みたいな勢いだけど、王家会議でそんな手荒なことは避けたい。セバスティアンの助力があれば、粛々と王太子の策を回避できるかもしれない」

「でも、それでも信用できませんか?」

「そうなのよ。あの人、いまだにどこまで本音を語ってるか分からないんだもの。第二王子だし、王位を狙っているなら、私を捨て駒に使う可能性は十分あるわ」


 私は封筒の文章をもう一度読み返し、「ああ、頭痛がする」と呟く。セバスティアンは「兄が最後の賭けに出る」と言い切っている。ということは、謹慎中の王太子がただ引きこもっているわけではなく、深謀を巡らせて動いていると踏んでいるわけだ。そしてコーデリアがそこに加わるなら、被害は私までおりてきてもおかしくない。


「……やっぱり、乗るしか手がないのかしらね。もしコーデリアと王太子が本格的に私を陥れようとしたら、一人で対処するのは難しいかも。ノエルと家族だけで持ちこたえられればいいけど、正直、もう大騒ぎはゴメンだし……」


「お嬢様、あまり深刻にならないでくださいね。私たちだけで何とかなる部分もあるかもしれませんけど、最悪の場合、セバスティアン殿下を利用してしまうのも手かと!」

「利用し合う関係……それこそがあの人の狙いなんでしょうね。嫌になるほどしっくり合ってる」


 嫌味っぽく呟きながら、私は手紙をそっとテーブルの上に置いた。まるで小さな毒がしみ出すような不安感に包まれるが、このまま突き返して済むなら楽だったのに。


「もう……いやになるほど全部繋がってる感じがするわ。王太子とコーデリアは悪巧みして、セバスティアンは彼らを陥れるために私に接近してきてる。私は私で、家の安全を守るためにその助力を捨てきれない……」

「はい、お嬢様もお困りのようですけど、もし第二王子殿下が味方してくれるなら、殿下とコーディリア様の策を未然に防げる確率も上がりますし……」


 ノエルはちょこんと首を傾げ、私の顔を見上げている。彼女としては、私が苦労しなければそれでいいから、必要ならば何でも使えという考えなのだろう。分かりやすいと言えば分かりやすいけど、まるでセバスティアンをナチュラルに受け入れようとしているのが怖い。


「迷うわ……でも、結局どこかでセバスティアンと話をつけないといけないのかも。あの人も、王家会議に絡む可能性が高いから、こちらが待っているだけでは情報不足だし」

「お嬢様が決断するしかないですね。もし私にお手伝いできることがありましたら、いつでも言ってください! 勇み足にならないよう気を付けますが、全力で動きます!」


 ノエルの力強い宣言に、私は笑みを漏らす。彼女の行動力が頼りになるのは間違いない。けれど、余計なトラブルを起こさずにいられるかどうか……そこは私も自信がない。何せ過激な家族と使用人に囲まれているから、ほんの少しの火種が大火事になりかねない。


「ま、とりあえずは心の準備をしておきましょうか。『王太子が最後の賭けに出る』とセバスティアンが言うのだから、コーデリアも加わって盛大な何かがあるはず。もう、これ以上の騒ぎは嫌なのに……」

「お嬢様、お気を確かに。今回は敵も多そうですけど、私たちだって強力ですよ!」

「気を確かにね……そう、何とかしなくちゃ。私もただやられるわけにいかないもの」


 私はテーブルの上の手紙を再び見やり、意を決する。セバスティアンの親切めいた言葉を鵜呑みにする気はないが、必要に応じて彼の助けも検討せざるを得ない。もう一度彼に連絡を取るか、あるいは王家会議の場で話し合うか。

 考えれば考えるほど、腰が重くなる。しかし、ここで逃げるわけにはいかない。コーデリアと王太子のタッグなんて、想像するだけでゾッとするけど、彼らに完全に出し抜かれては私の立場が危うい。すでに家族が「潰す」と意気込んでいる以上、情報は多いに越したことはないのだ。


「……はあ、仕方ないわね。あの人を味方につけるのか、少なくとも中立に保つのか、いずれにしてもやり方を考えないと。王家会議まであまり時間もないし」


「そうですね、王家会議もあっという間にやってきそうですし。もしお嬢様がセバスティアン殿下に会う必要があるなら、私も同行します!」

「うん、ありがとう。でも今はまだ様子を見ましょう。こちらから動いて“あの人”に隙を見せるのも怖いし」


 ノエルの目が「私もそれがいいと思います!」と輝いている。そんな頼りになる侍女を隣に、私は再び手紙の文章に目を通す。「協力が必要なら声をかけろ」――この一文は特に心を揺さぶる。まるで「おまえだけじゃ不安だろ?」と嘲笑されている気がするから嫌だけれど、実際不安は拭えない。


「はあ、セバスティアンの狙いが分からない以上、あまり無理せず待機が正解かな。コーデリアと王太子が動き出したら、嫌でも具体的になるだろうし……」


「そうしましょう、お嬢様。きっとすぐに何か起こりますよ。そしたら、そのときに殿下を利用しても遅くはないです!」

「ええ、どうせ近いうちに向こうから仕掛けてくるわ。……本当に面倒ばっかり。私が何か悪いことした?」


 自嘲気味に溜息をつくと、ノエルが「お嬢様が悪いはずありません!」と声を上げる。ちょっと大袈裟な反応に苦笑しながら、私は意を決して手紙を棚に仕舞い込んだ。

 ――セバスティアンの言う「最後の賭け」がどれほどの破壊力を持つか分からないけれど、私はもう逃げる気はない。王家会議とやらがどんな場になるかは不明だが、ここで焦って行動するのは得策じゃない。

 コーデリアと王太子の謀略が動き出すのを待ちながら、いつかセバスティアンが本格的に声をかけてくるだろう。そのとき私が協力を拒むか、あるいは手を組むか……それを決めるのは、まだ先の話。


「まったくもう……私だって平穏に暮らしたいのに、やれ王太子だのコーデリアだの。……はあ、少し休みたいわ」

「お嬢様、困難こそ成長のチャンスです! この程度、きっと乗り越えられますよ!」


 ノエルの楽天的な励ましに、私は苦笑しつつも少しだけ心が軽くなる。セバスティアンの不気味な親切、コーデリアの暗躍、王太子の謹慎破り――次々と迫る嵐の中で、私が頼れるのはいつもの仲間と自分の意志だけだ。

 もう一度深呼吸して、私は気を取り直す。この手紙を読んだ限り、確かに王太子が本気で何か企んでいる可能性は高い。ならば、それを逆手に取れるくらいの策を練えてやるしかない。やれるだけやってみよう――そう心に決め、私はノエルへ笑顔で返事をした。


「わかったわ、ノエル。あの人の“好意”を上手に利用するかどうか、じっくり考えておく。とにかく次の動きが見えたら、すぐ教えてね」

「はい! お任せください、お嬢様!」


 こうして、セバスティアンの差し出した手紙が私の心を再び揺さぶる。危険な誘いかもしれないが、コーデリアと王太子の脅威を思えば無視できない。いよいよ嵐が近づいてきたのを感じながら、私はもう一度手紙に目を走らせた。そこに書かれた言葉の一つひとつが、私を悩ませつつも戦意を奮い立たせるようで――まさに、笑えないコメディの幕開けだった。

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