第15話 コーデリアの最終計画! 王太子との禁断の共闘?③

 昼下がりのサロンで、私は穏やかなお茶の時間を過ごしていた。窓の外には初夏の光が溢れ、鳥のさえずりが涼やかに聞こえてくる。どうにか一息つける……はずだったのだけれど、ノエルの足音がなぜか急ぎ足になって近づいてくるのが分かり、私はカップを置いて肩をすくめた。


「お嬢様、大変です!」

「ノエル、いつものごとく落ち着いて。何があったの?」


 息を切らしながらサロンに飛び込んできたノエルは、きょろきょろとあたりを見回してから私の前に進み出る。テーブルに広げてあった書類の隙間を縫うようにして、一枚のメモを取り出した。どうやら最新の情報が入ったらしい。


「王太子殿下が、陛下の目を盗んであちこち密会しているみたいなんです! いまだ謹慎中なのに、勝手に外に出歩いている様子が目撃されていると噂が広まっていて……」

「……まあ、殿下が謹慎をきちんと守るとは思ってなかったけど。やっぱり動き出したのね」


 私は思わずため息をつく。アルフレッドが謹慎中とはいえ、大人しくしているはずがない――そんな予感は当たってしまったらしい。しかも、どこで何をしているかさっぱり分からないのだとすれば、これが厄介な問題になりかねない。


「しかも、今回の密会相手がコーデリア様なんじゃないか、って声も出ているそうです。確証はないんですが、殿下の行動を追っている人が言うには『妙にあの娘に会ってるようだ』と……」

「嫌な予感しかしないわね。だいたい、あの子が絡むとなると落ち着いている時間が一気になくなるから困るのよ」


 それでも私は紅茶を一口口に含んで、ほんの少し気を取り直す。せっかく気持ちを切り替えようと思っていたのに、再びコーデリアと王太子のセットが動くなんて悪夢の再来だ。正直、今は第二王子の動向もあるし、複数の危険因子が重なってどうにも落ち着かない。


「お嬢様、心配ありませんよ。私がいれば大丈夫です! もしコーデリア様と殿下が裏で何かを企んでいるなら、すぐに突き止めて差し上げますから!」


「ありがとう、ノエル。でもそう簡単に突き止められれば、そもそも王太子も謹慎を破れないはずだし……あの人たち、案外こそこそやるときはうまいのよね」


 舞踏会で恥をかいた王太子が、コーデリアと組んでいる――情報としては十分あり得るが、本当に成り立つのかどうか疑問ではある。あれだけ馬鹿にされた王太子が、同じく馬鹿にされたコーデリアと共闘するなんて考えるだけで頭が痛い。


「でも、公爵家と第二王子をターゲットにしているとか、噂がありますよ。つまり、お嬢様も次の標的ってことですよね! ああ、許せません! 私がまとめて阻止してみせます!」

「その気持ちはありがたいけど、またどこかで大騒ぎになるのも避けたいわね。セバスティアンまで絡んだらどうなるのか想像したくもないし……」


 私は苦い笑みを浮かべながら、書類の山を指先で軽くなぞる。コーデリアも王太子も、とにかく大騒ぎを好む連中だ。いや、王太子は元々ただの面倒くさがりだけれど、コーデリアの煽りに乗せられたら何をしでかすか分からない。もしそこにセバスティアンが割って入ったら――考えただけでもカオスだろう。


「お嬢様、どうなさいますか? 私、もっと詳しく調べてきましょうか? それとも、先に殿下に直談判しに行きますか?」

「いきなり殿下に突撃するのは危険すぎるわ。公爵家としてわざわざ騒ぎに首を突っ込むこともないし……。でもノエル、詳しい情報があれば欲しいわね。コーデリアとアルフレッドが本気で組んでるなら、何を企んでいるか先に知っておきたいもの」


「わかりました! 私、あらゆるツテを駆使して探ります! あのコーデリア様まで加わったら本当にややこしいですからね。お嬢様は心置きなくお待ちを!」


 ノエルが決意をにじませて頷く姿は心強いが、私としては「大丈夫かしら、この子」と余計な心配もしてしまう。何せノエルは常軌を逸した行動力を持っているのだから、やりすぎてトラブルに巻き込まれないか不安なのだ。


「とにかく、今は情報が少なすぎる。一度噂の出所を確認してみて。あまり無茶しないようにね。最悪の場合、また兄さまや父さまが出動しそうだし……」


「兄さまや父さまが出動……それはそれでスピーディかもしれませんが、確かに騒ぎを大きくしちゃいそうですね」


「でしょ? もう勘弁してって感じ。まったく、どうしてこうも周りが物騒なのかしら」


 ため息混じりにぼやく私に、ノエルが「お嬢様は大変ですけど、そんなあなたが好きです!」と満面の笑みを返すから、また頭が痛くなる。

 しかし、避けては通れないのだろう。コーデリアと王太子が本格的に動き出したのなら、また一波乱起きるのは時間の問題だ。第二王子や我が家の男性陣だって黙ってはいないだろう。私はあちこちに落ちている火種を想像して、胃がキリキリするような思いになる。


「今度こそ嫌な予感しかしないわ。セバスティアンが言っていた『コーデリアは動いている』という話もこれかしらね。殿下が動きだしたら確定よね」


「やっぱり、あの方もお嬢様に助言してくださったのは的中だったんでしょうか? となると、王太子側にコーデリアさんが加わるのも本当、殿下はもう止まらないかもしれませんね」


「嫌すぎる……もう頼むからおとなしく謹慎してほしかったのに」


 テーブルの上で軽く指を叩きながら、私は視線を窓の外へ移す。明るい陽射しは相変わらずだが、私の心中は曇り空。こうして警戒する日々がまた始まると思うと、正直うんざりする。だけど、ここで目を逸らせばコーデリアたちの思う壺かもしれない。


「コーデリアに振り回されるだけでも面倒なのに、王太子が参加するなんて最悪のタッグね……。あの人が本気で復活を企んでいるなら、その舞台はどこになるのかしら。まさかまた舞踏会とか? お断りしたいわ」


「お嬢様、そんなこと言わないでくださいよ。私たちはいつでもお嬢様の勝利を目指しているんですから!」


 ノエルが元気に声を張り上げるたびに、周囲の空気が少しだけ軽くなる気もする。この子の熱意に引きずられて、私も妙に勇気をもらうのだ。もっとも、その方向性が少し暴走気味な点は否めないけれど……。


「うん、ありがとノエル。次に何があっても前回みたいに私も逃げない。もしコーデリアと殿下が仕掛けてくるなら、いっそこちらも先手を取る手段を考えないとね」


「ええ、そうしましょう! 私、全力で動き回って情報を取ってきます!」


 ノエルがそう宣言して嬉々として部屋を飛び出していく姿を見送り、私は一人テーブルに頬杖をつく。そこにはすでに“次の大騒ぎ”の種が鮮明に目に浮かんでいた。王太子とコーデリアのコンビにセバスティアンがどう絡むか――想像するだけで頭が痛い。

 でも、ここまで来たらもう引き返せない。私も公爵家の一員として、彼らの企みを無視していればいずれ大きな被害が出るかもしれない。だからこそ、対抗策を練りながら、私自身の“勝利”を保持し続けなくては。


「いやな予感しかしない……でも、さあ、どうしてやろうかしら。次はあの子たちが舞台を用意するかもしれないし……」


 口に出した瞬間、ふと部屋の外からノエルの声が「お嬢様、行ってきますね!」と響く。私は思わずくすりと笑って、「わかったわ。気を付けて」と返す。まったく、我が家はいつだってバタバタしていて落ち着かない。

 でもこれが私の現実なのだろう。コーデリアもアルフレッドも、さらにはセバスティアンも絡む複雑な権力関係……ひとつでも間違えればまた大荒れになるに違いない。しかし、あの舞踏会よりは少しだけ余裕がある気がする。


「絶対に成功させないわよ、あんたたちの策略なんて。今度は私だって負けるつもりはないんだから」


 小さく呟き、私はカップを手に取り改めて紅茶を口にする。外の空はまだ明るい。穏やかに見えるこの時間が、次の騒動の前のつかの間の平和だと思うと少し切ない気持ちになるが、過激な家族と才能あふれる侍女に支えられている以上、恐れることはない。

 ……そう自分に言い聞かせつつ、私は再び窓の外に広がる青空を見上げる。どうにもすぐには嫌な予感が消えないけれど、ここで立ち止まるわけにもいかない。コーデリアと王太子が“禁断の共闘”を始めたというなら、むしろ迎え撃つ準備を進めておくだけ。さあ、次の大騒ぎに備えて、まずは腹ごしらえでもしてしまおう――そんな妙に前向きな決意をしながら、私はノエルの戻りを待つのだった。

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