第15話 コーデリアの最終計画! 王太子との禁断の共闘?②

 夜の帳が下り、静まり返った館の一室――そこには、豪華な装飾があちらこちらに施されているものの、やや暗い照明のせいで陰鬱な雰囲気が漂っていた。先日から失踪したと囁かれているコーデリア・フローランが、姿勢良く椅子に腰掛け、テーブル越しに向かい合う黒衣の協力者へ言葉を投げかける。


「いい? 先日の舞踏会でリリエッタがやったように、今度は王太子殿下こそが華々しく“無実”を証明する番なの。そうすれば、公爵家に押さえつけられた立場だって一気に逆転できるわ」


 コーデリアの表情は明るい。何より、一度大恥をかかされた記憶など微塵も残っていないかのような自信に満ちている。目の前の協力者は、顔まですっぽりフードで覆っており、その表情は読み取れないが、声には微かな驚きが混じっている。


「それで、お嬢様は王太子殿下に偽証のような形で“無実”を演出させるおつもりですか? 先日の事件で、公に彼の失態が明らかになっていましたが」


「そうよ。実際は散々な証拠を出されて殿下も逃げ場がなくなったけれど、あれが全部『公爵家による冤罪だった』と宣言してしまえばいいのよ。証拠なんて、逆にこっちが幾らでも作れるもの!」


 あまりにも強気なコーデリアの発言に、協力者はわずかに首をかしげながら問いかける。


「なるほど……王太子殿下の濡れ衣を晴らすために、リリエッタ様や公爵家が捏造したというストーリーをでっち上げるわけですね。ですが、先方には第二王子殿下もいらっしゃる。そちらの介入は考慮済みでしょうか?」


「ええ、もちろん。あの第二王子こそ厄介な存在よね。けれど、殿下を華麗に復活させる舞台が整えば、奴だって一巻の終わりだわ。だって、第二王子なんて所詮は後から生まれた弟。正統な王位継承者じゃないのよ。王太子殿下さえ立て直せば、国も世間も簡単に気が変わるわ!」


 言葉を発するたびに、コーデリアの声は高揚し、手振りが大きくなる。その派手な仕草は、一度舞踏会で見せた痛々しい空回りとは微妙に違う。今は何らかの筋書きを手に、確かな裏付けを感じているのだろう。


「ですが、あの公爵家と第二王子を同時に潰すには、それなりの計画と手段が必要です。いくら皆さまが王太子殿下を立てようと、彼らは黙ってはいないでしょうし」


「心配要らないわ。そもそも殿下だってこのまま終わるほど鈍くはないの。私が言葉巧みに説得したら、そこそこのやる気を出してくれたし。彼はプライドだけは高いから、逆転のチャンスがあると思えば、尻尾を振るわ」


「なるほど。お嬢様はすでに王太子殿下をその気にさせたのですね?」


「そうなの。やっぱりあの人、バカにされるのが嫌いだから。『このまま黙っていると本当に終わるわよ? 父上にも見放されるわよ?』と煽れば、ちゃんと反応してくれるもの。ふふ、分かりやすいわよね」


 コーデリアはくすくすと笑いを漏らす。その笑いはまるで幼子が悪戯を企んでいるかのような純粋さが混ざっているが、協力者にはそれが不気味に映ったのかもしれない。フードの奥で微妙に息を呑んだ気配がある。


「公爵家の出す証拠をすべて嘘と断じるのは、かなり強引な策かと思われますが……。よほど上手く仕立て上げないと、またお嬢様自身が笑われる可能性もあります」


「いいのよ、上手く仕立てれば。それに私には協力者――そう、あなたを含めて、そして複数の手があるわ。王太子殿下さえ動けば、周囲を調達するのは簡単でしょう? 必要なら証人だって買えばいい。それくらいの資金は用意できる」


 言い放つコーデリアの瞳は、一度は打ち砕かれたはずの自信を取り戻している。もしかすると、前より凄まじい。あの舞踏会での大失敗と嘲笑が、彼女を逆に奮い立たせているのかもしれない。彼女はテーブルをトンと叩いて立ち上がる。


「狙いはね、リリエッタが殿下に押し付けた罪が嘘だったと暴露すること。それも華々しく――まさに先日の舞踏会みたいな公的な場で。そして第二王子だって裏で陰謀を働いていたと誹謗するの。『二人が共謀して王太子殿下を貶めた』という筋書きができれば完璧!」


「なるほど。それでお嬢様は『公爵令嬢と第二王子が結託して殿下を陥れた』という話を広めたいのですね」


「そうよ。しかも都合がいいことに、王太子殿下は公務停止。公爵家だって、リリエッタに証拠を握られてる以上、次も同じ手で騒ぐなら逆に怪しまれるはず。私が巧みに誘導すれば、殿下だって抵抗感なく動くわ」


 どこまでも楽天的に語るコーデリアに、協力者はややうなずきながらも内心は複雑そうだ。しかしその心境を悟られないようにか、「それは面白いですね」と返すのみ。

 どう考えても穴だらけの計画のように思えるが、コーデリアはあくまでも成功を確信している。


「大丈夫よ、すべてうまくいくわ。私はあの舞踏会で転んだだけ。こんなもので終わる私じゃないの! リリエッタの勝ち誇った顔を思い出すと……ああ、腹が立つ。必ず引きずり下ろしてやるから!」


「……承知いたしました。お嬢様の望む準備は、私どももお手伝いいたします。いずれにせよ、派手な舞台が必要になりますね?」


「ええ、そう。もっと華々しくしないと。証明の場、舞踏会、何でもいいわ。お披露目の大舞台で一気に公爵家を否定してみせる。それに第二王子も混ぜてやれば、混乱が大きいほど面白いじゃない!」


 コーデリアは愉悦に満ちた笑みを浮かべ、まさに破滅へと突き進むフラグを幾重にも立てているのに、まったく自覚がない。協力者が「これは完全に失敗フラグでは……」と思っても、口には出さない。自分の役割はあくまでも彼女を煽り、計画を手伝うことだからだ。


「では、お嬢様の計画に沿って手を回しておきましょう。私も裏で動きますので、心配なさらず」


「頼もしいわ。私の屈辱、全部晴らしてみせるから! あの馬鹿にした連中の顔を今から想像すると胸が躍るわね……!」


 こうしてコーデリアは“最終計画”なるものを口走り、王太子との禁断の共闘に乗り出してしまう。外部の目線からすれば、失敗する未来しか見えないが、当の本人は勝利を信じて疑わない。

 部屋の扉が静かに閉まり、彼女は再び椅子に腰を下ろす。先日の舞踏会の惨劇など忘れたかのように、新たな逆襲への高揚感が隠しきれない。いずれ公爵令嬢も第二王子も一網打尽にする――その野望を抱く彼女の目には、薄暗い炎のような執念がゆらめいていた。

 協力者が部屋を後にし、しんとした静寂が戻る。そして、コーデリアの舌打ちが小さく響く。


「……今度こそ、私が勝つのよ。リリエッタ……それにセバスティアンなんかにも、地獄を見せてあげるから」


 誰に聞かせるでもなく呟きながら、彼女はぎゅっと拳を握りしめる。その残念な野心から生まれる騒動が、どんな大惨事を招くのか。少なくとも、彼女の自信を覆すだけの現実が待っていることに、コーデリア自身はまったく気づいていないのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る