新規イベント2
棗「・・・・・。」
俺は困惑していた。蓮司の大怪我と貴族の襲来。ハッキリ言って今年はもうこれだけで腹一杯だ。なのに。
天音「・・・・・。」
男「・・・・・。」
例の2人が今、目の前にいる。俺達、一般学生が使う寮の食堂でテーブルを挟んで座っている。俺の向かい側に天音が座り、あの落武者ルックにした貴族はその後ろで立っている。あの見事な髪型はまだそのままらしい。
男「何を見ている?」
棗「はははっ。笑えますね。その髪型。」
男「何だとぉ!貴様ぁ!」
天音「お止めなさい!」
男「・・・はい。」
天音「棗様。ご学友の事、本当に済みませんでした。何も起きていませんでしたから、咎める事の無い様に伝えた筈なのですが。」
棗「そいつの独断で蓮司が怪我を?」
天音「ええ。」
あまり強く言うべきじゃないとは思う。けど、今回の事について気持ちが収まっていない。そこに来て奴のこの態度。余計にイラッとする。
棗「そう言うのはちゃんと躾けて頂かないと。」
天音「ええ、仰る通りです。」
男「貴様!ふざけているのか!」
天音「これ以上、私に恥を掻かせないで下さい。」
男「うぐっ!くっ!」
男が俺を睨む。俺はそれに笑顔で答える。いい気味だ。しかし、これ以上は後が怖い。とにかくこれくらいにしよう。
棗「あのぅ。」
天音「はい?」
棗「今日はこの謝罪だけですか?なら、謝罪はお受けしましたので。そろそろ。」
俺は素早く立ち上がりこの場からの脱出を図る。
天音「あ!お待ち下さい。出来ればもう少し私に時間を戴きたいのです。貴方はもう良いわ。退がって。」
男「な!ですが!」
言い淀んだ瞬間、天音が睨む。とは言っても後ろ姿だ。表情は見えない。ただ、男の絶望感のある顔を見るにそう推測出来る。
それよりも気になるのは天音の言う話だ。不安しかない。男が退出し俺と天音だけになると、しばらく沈黙が続いた。そして意を決した様に天音が口を開く。
天音「改めまして、神宮寺 天音です。」
棗「えっと、桜庭 棗です。」
天音「"桜庭"?聞いた事がありませんね。」
棗「まぁ、平民ですからね。あの人は。」
天音「はい?」
棗「あ!いえ、育ての親です。俺、孤児ですから。」
天音「そう、なのですか?でも・・・。」
ヤバい、怪しんでいる。小説の設定だと、貴族の血筋だから特殊な力を宿してるって話だった筈だ。
棗「あの、それでお話と言うのは?」
とにかく話を進めて誤魔化そう。
天音「そうでしたね。10年程前の事です。神託を賜ったのです。」
その神託ってのが、"俺"に関する御告げだ。
天音「神に選ばれし者が世界を救うと。」
そんなデカい話だっけ?
棗「それと俺に・・私に何の関係が?」
天音「普段通りで構いません。私には見えるのです。精霊が。勿論、姿をハッキリと認識している訳ではありませんが。貴方にはどう見えていますか?」
棗「え?えっと?何にも見えないです。」
天音「え?本当ですか?ですが、あの時は多様な精霊の力を扱っていた様に見えました。」
棗「あの時は無我夢中で。」
いい加減に引き下がって欲しい。そう思っていると天音の後ろにいる精霊、光の精霊と目が合う。俺は素早く目を逸らす。
光精霊「貴様、私が見えているな。」
いえ、見えてません。
光精霊「会話が成立しているではないか!それよりも気になる事がある。何故、闇がここにいる?」
闇精霊「え?関係ある?それ?」
火精霊「生憎だが此奴は同居人。貴殿に問われる事では無い。」
闇精霊「火精霊?」
水精霊「へぇ、優しいじゃん。」
火精霊「ふん。」
精霊達が何かエキサイトしている。
天音「どうしました?」
棗「いえ、何でも。所で私とは関係無い話の様ですし、そろそろ他の学生達にも迷惑になりますから。」
まだ納得してない雰囲気だが、このまま食堂を貸し切り続ける訳にもいかない。天音が立ち上がる。取り敢えずここは退くらしい。
天音「改めまして、先日は荒神 炎珠(アラガミ エンジュ)が失礼しました。今後はあの様な事が無い様に言って聞かせます。それではまた。」
棗「あ、はい。お疲れ様でした。・・・ん?また?」
また来るって事?
風精霊「そうなりますね。」
マジかよ。
火精霊「フンッ。しかし、"帝"の娘であろう?そんなに暇ではあるまい。直ぐに再会など無いだろう。」
それもそうか。
棗「あれ?荒神 炎珠って言った?」
闇精霊「言ってたね。知り合い?」
棗「・・・・はぁ、知り合いじゃない。と言うか今まで会った事無いだろ?あいつメインキャラだ。主人公のライバルキャラ。」
風精霊「主人公、"鉄雄"さんのライバルですか?」
棗「そう。試験の日に模擬戦で戦う相手だった奴さ。本来ならそこで初対面する筈だった。」
火精霊「お前がテストに手心を加えたから知り合うタイミングがあの日になった訳か。」
棗「そんな言い方されてもな。」
水精霊「小説でもあんな髪型?」
顔を塗ってないだけで、ほぼピエロの顔面になっていた炎珠を思い出す。
棗「フッ。いや、それは無いけど。と言うか記憶の中に映像が無いから、見た目で誰って分からないんだよ。」
闇精霊「いまいち役に立たないね。その記憶。」
棗「悪かったね。しかし、参った。たったの数日でメインキャラ、2人とお知り合いになってしまった。このまま何事も無く3年過ぎるかな?」
水精霊「無理じゃない?」
棗「くっ。スッパリ言うなって。」
火精霊「しかし、気になる。」
棗「何が?」
火精霊「言っていたでは無いか。"そんな大きな話だったか?"と。」
風精霊「御告げの話ですね。私も気になりました。"世界を救う"と言う話は聞いてませんでしたね。」
水精霊「確かに。」
棗「まぁ、俺も知らないけど。」
闇精霊「もしかしたら戦い続けるシナリオを変えられる方法があるのかも。」
棗「例えば?」
闇精霊「え?・・・・えっと?あ!魑魅魍魎を一生封印するとか?」
棗「そうなれば良いけど。」
水精霊「でもそんな話。聞いた事無いよ?」
風精霊「私もです。」
火精霊「落ち着け。全ては闇の推測だ。今、騒ぐ事では無い。」
棗「はぁ、とにかく今日は疲れた。・・・このまま小説と同じ展開になったりしないだろうな。」
闇精霊「どうだろうね。」
火精霊「フンッ。それはそれで楽しみだがな。」
棗「不吉な事を言うのは止めてくれ。」
まぁ、言わずもがな今回の騒動はこれで終わる事は無かった。
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