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男「貴様!見つけたぞ!」


棗「え?誰?」


男「貴様が"桜庭 棗"だろう!」


棗「いや、どうでしょうね?」


男「フンッ!誤魔化しは効かんぞ!貴様等のお陰で天音様との貴重な時間が台無しになったのだ!」


棗「は、はぁ。」


男「まぁ、取り敢えずは"紅 蓮司"とか言う無礼者には制裁を下した。後は貴様だけだ!」


棗「はぁ?」


今なんて言った?制裁を下した?蓮司に?


棗「蓮司に何をした?」


男「フッ。本来答えてやる義理は無い。だが、特別に教えてやる。骨を何本かへし折って病院に送ってやった。素直に貴様の事を吐けば医務室で2週間寝る程度で済ませてやったのにな。」


棗「貴様!」


男「付いて来い!貴様にも制裁を下す!逃げられると思うな!もしこれ以上逃げれば、次は誰が標的になるか分からんぞ?」


俺は男に促されるまま、本校舎の模擬戦用の闘技場へ連れて行かれる。ただ、流石の俺も大人しくやられるつもりで来た訳じゃない。と言うか"怒り心頭に発する"とは正に今の状態だろう。こいつがどうなろうと関係無い。闘技場には別の貴族もいた。この場の全員と闘う事になるかも知れないが、今は怒りが立ち恐怖は感じない。


男「安心しろ。彼等は立会人だ。貴様が卑怯な真似をしない為のな!」


棗「そうか、なら良かった。」


男「何だと?」


棗「蓮司を痛め付けた分は、人前で恥をかかせる事で良しとしようって話さ。」


男「貴様!殺す!」


男が腕を真上に伸ばすと男の後ろの精霊が力を集め、火の玉が4つ作られる。正直、婆さん玉に比べると何も怖く無い。ここに来てやはり婆さんが別格だと分かる。俺は右手の人差し指から小指に掛けて、4つの小さな霊力玉を作る。そして男が火の玉を放とうとした瞬間、霊力玉を打つけ火の玉を掻き消した。


男「はぁ?な、何?どういう事だ?」


今、何が起きたのか?正しく理解出来る奴は、この場にはいないだろう。

男は状況が分からず頭上を見る。そんな男の隙を突き、正面に接近するとガラ空きの鳩尾へ左の拳を打ち込む。


男「ゲボォ!」


男は膝を突く。その様子を見た立会人である他の子息達が、卑怯だと声を揃えて騒ぐ。そんな事は知らん。俺は膝を突いた男の顔を左手で掴む。


火精霊「良いんだな?」


棗「構わない。やってくれ。」


何となくニヤついている火精霊が俺の左手から炎を出す。


男「ぎゃあ!」


下手に婆さんの霊力玉を当てれば多分死ぬ。この方がまだ良心的だ。それにこいつも火精霊。火傷はしないだろう。だからせめてこいつの頭だけは戴く。


男「かはっ!」


中央を焼き払い、落武者ルックにしたついでにその残ったサイドもチリチリだ。うむっ。素晴らしい焼き加減だな。


火精霊「当たり前だ。この程度、朝飯前だ。」


すると今度は立会人の筈の連中がリングに上がろうとする。仕方ないから何人かを風で空中に打ち上げ、数人を水の玉で気絶させる。残った奴等は何分かで解ける暗闇状態にした。


闇精霊「いやぁ、初めて力を使ったけど。中々に楽しかったね。」


風精霊「はい!少しスッキリしました。」


水精霊「もっとガンガンやっちゃえば良いのに。」


棗「勘弁してくれ。でも、俺も思った以上に冷静じゃなかったみたいだ。ここまでするつもりは無かったのに。」


火精霊「良いでは無いか。仇は取った。草葉の陰で蓮司も喜んでくれよう。」


棗「話の通りならまだ死んで無い筈だよ?」


火精霊「そうなのか?」


そんな話をしていると何となく視線を感じる。客席の上の方だった。誰かいる。


棗「あ!」


天音「・・・・・。」


み、見られた!


棗「あ・・・アレは何だ!」


天音「え?」


この距離で良く聞こえたな?とか思ってる場合じゃない!俺は音も無く走り出し、闘技場を後にする。


棗「蓮司に悪い事したな。」


水精霊「これからお見舞いに行く?」


棗「行くけど、先ずは病院を調べてからだな。」


蓮司の事はそれから直ぐに分かった。幸い大人しくしていれば直ぐに良くなるらしい。婆さんの修行の成果もあったのかも知れない。蓮司には謝罪をしたが、気にするなと言われた。

蓮司はあの貴族に対して謝罪をした。だが、俺も一緒に制裁しないと気が済まないと言われたそうだ。俺を守る為に沈黙を貫いたのだ。本当に悪い事をした。この借りはいつか必ず返そう。

実はこの騒動、続きがある。貴族の子息が怪我をしている。当然、俺の責任を問う話が出たらしい。だが、なんと"帝"の鶴の一声で不問になった。更なる厄介事が起きそうな予感はする。だが今の俺にはこれ以上、何も起き無い様に祈るしか無かった。

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