帰省、その他諸々

桃香「おお!棗!久しぶりだね。」


棗「おう。婆さん。久しぶり。」


桃香「で?何人だい?」


棗「何が?」


桃香「倒した貴族の数だよ。」


棗「貴族なんか倒さないよ。」


桃香「何だって?それじゃあ、特進クラスには入って無いのかい?」


そもそも貴族を倒して特進クラスに入れる保証は無いだろ?まぁ、とにかく学園生活を楽しんでいる事は話した。


桃香「ふむ。取り敢えずはあんたが良いなら良いけどね。隙があれば直ぐに上へ行きな。」


棗「はぁ。」


桃香「さぁ、こんな所で立ち話もアレだから入りな。お茶を淹れるよ。」


棗「おう。」


そして婆さんが俺の前にお茶を出す。俺は湯呑み茶碗を手に取り、口へ運ぼうとするがそこで思い留まる。


棗「・・・・・。」


桃香「何だい?」


棗「いや、そのぅ。」


桃香「あんたねぇ。お茶は、お湯沸かして急須で茶葉を蒸らして注ぐだけだろ?そんなんでどうやって失敗するんだい?」


それもそうか。俺は話を聞き安心してお茶を啜る。


棗「ぐっへぇあ!ゔわぁ!何んだよ!これ!婆さん、何淹れたんだよぉ!」


桃香「あたしゃが淹れたのはお茶だよ?甘い訳無いじゃないか。」


棗「いやいや、お茶の味ってのは苦いか渋いかだろ?あんたのお茶はそれを通り越して純粋に不味いんだよ!」


桃香「失礼だね。あたしゃ気にした事無いよ。」


そう言いながら今度は婆さんがお茶を啜る。


桃香「ゔぇ。」


棗「今、吐きそうになって無かったか?」


桃香「いいや、知らないね。」


棗「はぁ、待てよ。俺が淹れ直す。」


桃香「お?そうかい?やっぱりあんたの淹れたお茶の方が上手いからね。」


全く、そう言えば俺が喜ぶと思ってるのか?

とにかく久しぶりの帰省を果たし、少しのんびりしたい。と思っていた。朝を迎えると直ぐに婆さんが俺を叩き起こす。


桃香「ほら、水汲んできな。」


棗「マジかよ。」


学園に入る前と同じく朝飯を作り、食ったら修行。昼飯の休憩を取ってまた修行、晩飯を食って就寝といつもの1日を過ごす。


棗「折角帰ったのに休む暇無し?だったら学園にいた方がマシじゃないか。」


桃香「何言ってんだい?良いかい?最強への道は1日にして成らずだよ。」


何処かの帝国の格言みたいに言うなよ!


桃香「ただ、ちょっと安心したよ。」


棗「何が?」


桃香「ちゃんとサボらずに鍛えてるね。」


棗「はぁ?そりゃ、戦闘訓練とかあるし・・。」


桃香「いや、そうじゃないよ。それとは関係無く、日々の鍛錬をしているみたいじゃないか。」


何の事だ?俺は学園の日々を思い出す。確かに暇な時は筋トレとか・・・あ!俺が筋トレをしていると蓮司も一緒になって筋トレをしていた。朝のランニングも一緒にしている。競走はしていなかった筈だが、ある時蓮司が俺より先にゴールした事があった。


蓮司「フッ、俺の勝ちだな。」


そう言われた俺は次の日、蓮司より先にゴールした。


棗「まぁ、こんなもんだな。」


蓮司「ぬぁ!」


その日から、ただのランニングが蓮司との競走になっていた。最近では全力で抜きつ抜かれつという感じの勝負をしている。


棗「・・・・・。」


知らない間に汗水流しながら己を鍛えていた。


闇精霊「相変わらず気付くのが遅いよね。」


火精霊「ふむ、青春の1ページとして良い経験をしているではないか。微笑ましいぞ。」


そんな青春なんて一言で片付け無いで欲しい。


棗「はぁ、同室になった奴と競い合ってたけどあれが原因か。」


桃香「ほう、それは良い事だね。」


今後の予定だが、明後日には蓮司の実家の宿屋へ向かう。途中ですみれと合流する事になっていて、あっちに着いたら3人で蓮司の地元を見て回る。その後はすみれの実家へ向かい、蓮司の時と同じくすみれの地元を見て回る事になっている。

この夏季休暇を有意義に過ごす為、皆んなの所へ行こう。分かってはいたけど、この家ではのんびり出来無い。

そして出立の日。


桃香「行くのかい?」


棗「ああ。」


桃香「淋しくなるね。」


棗「よく言うよ。それにここだとのんびり出来無いし。」


桃香「何言ってんだい。最強へ至るのに"のんびり"なんてのは要らないんだよ。」


棗「最強になりたいなんて言ってないぞ。」


桃香「はぁ〜。向上心の無い子だね。あたしゃの若い頃は是が非でも最強になりたくて、手段なんて選ばなかったよ?」


棗「それで貴族を蹴散らすなんて、正気じゃないぞ?人として終わってるよ。」


桃香「フンッ。"最強"ってのは人のままじゃ至れないんだよ。」


棗「・・・・聞いた俺が馬鹿だったよ。」


とにかく婆さんの事は放って置いて蓮司の所へ向かう。

この『世界』で1番、良いと感じた所はちゃんと列車や車があるという事だ。遠くまで無駄に歩かずに済む。俺はその列車を待つ。


棗「暇だな。」


俺は時間を潰す為、軽いストレッチをする。そして準備運動を終了し、そこからスクワットを始めた。空いた時間は有効活用しなければ勿体無い。俺は今や日課になっている鍛錬をする。だが、ふと我に返り動きが止まる。


闇精霊「どうしたの?」


棗「俺は今、何をしていた?」


火精霊「鍛錬であろう?」


棗「・・・・婆さんもいないのに何故こんな事を?」


水精霊「え?かなり前からそんな感じじゃなかった?」


風精霊「私もそう把握していますよ?いつも楽しそうに身体を鍛えてらっしゃいます。」


精霊達が俺に対し何も言わない現状は、もう今更という感じだろう。しかし、話が事実なら爺やと婆さんの仕込みは相当だった事になる。

気を取り直し蓮司の地元へ向かう。移動中、待ち時間があると何故か視線が上下している。無意識になる度、身体が勝手にスクワットをしていた。


棗「何故?」


すみれ「それはもう習慣になってるからじゃないかな?」


すみれと合流して直ぐにスクワットの相談をした。


棗「習慣か。どうやって止めよう。」


すみれ「え?でも、健康にも良いだろうし、悪い事じゃないでしょ?」


棗「いや、そういう事じゃないんだよ。」


このまま鍛えると、原作の通りになる可能性がある。そう考えると下手に強くなる訳には行かない。


蓮司「おお!こっちこっち!」


蓮司とも合流し、蓮司の実家の宿屋で休む。


棗「部屋、よく空いてたな。」


蓮司「全く繁盛して無いって事じゃないんだ。ただ、最近デカい宿泊施設が出来てさ。そっちにお客さんが流れてんだ。」


棗「俺が言う事じゃないかも知らないけど、そんな大変な状況で学園とか大丈夫なのか?」


蓮司「いやぁ、良い学校に行けば何か学べるかなってさ。」


絶対に入る学校を間違えたな。


すみれ「経済学とか、経営学もあるから履修してみるのは?」


蓮司「おお!良いな!・・・いまいち分からないけど。」


これでよくあの学校受かったな。

それより今は蓮司の実家の話だ。蓮司の家族は両親と弟に妹、蓮司の本人を入れて5人家族だ。偶に喧嘩もするが仲は良好だと言う。

夜はそんな蓮司の家族と一緒に、宿の食堂で晩飯を頂く事になった。蓮司の両親は学園での蓮司の話が聞きたいみたいだ。


すみれ「それで蓮司君と棗君に助けて頂いたんです。」


蓮司母「そうですか。」


蓮司父「よくやったな。」


蓮司「へへっ。2人共、俺より頭が良いから俺も助けて貰ってるんだ。」


蓮司父「少し心配だったけど、良い友達が出来て良かった。」


蓮司の両親は涙を流して喜んでいる。かなり心配していたらしい。ここまで喜ばれると少し照れ臭い。因みに弟と妹はあまり分かってない感じの反応をしている。

予定ではこのまま宿に2日程滞在。蓮司の地元を見て回った後に、今度はすみれの実家へ向かう事になっている。婆さんの自称"自分の山"と近くの町しか見た事の無い俺としては、少し楽しみだった。


棗「一体、どんな物があるのか?」


蓮司「別に大した物は無いぜ。」


棗「いやいや、絶対に婆さん所よりはマシさ。」


俺は期待を膨らませながら就寝した。

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