第3話 すみれのそうだん



 すみれの目のまえで、ちろちろと、ふしぎなひかりがゆれています。


 その光は、フローラがっている、大きなすいしょうだまからもれています。


 フローラの口からは、聞いたこともない外国がいこく言葉ことばが、さっきから、ずっとながれています。


 いまは、夢占ゆめうらないをしてもらっている、さいちゅうなのです。


 すみれは、フローラにあんないされて、2階にがりました。


 2階には夢占いのみせがあります。


 そして、すぐに夢占いがはじまりました。


「おとうさんのことで、ここにきたのね?」


 呪文じゅもんをつぶやきおわったフローラは、にっこりとほほえみました。


 フローラの質問しつもんに、すみれは、とってもおどろきました。

 だって2階にあがってから、まだなにも話していなかったからです。


「そんなに、おどろくなよ。フローラは、夢占いのせんもんなんだぞ。それくらい、すぐにわかっちゃうのさ」


 トッピがえらそうに、フローラのことを、じまんします。

 とっても、えらそうです。


 すみれは、いっぺんにトッピがきらいになってしまいました。


(じまんする男の子と、いじわるをする女の子はだいきらい!)


 そこで、なにかもんくをってやろうと思ったけど。

 フローラが、またしゃべりはじめたので、やめることにしました。


「そう……毎日まいにち、おとうさんは、夢でうなされているのね」


 フローラが、ぽつりと言いました。


 それをいたとたん。

 すみれは、とってもかなしい気分きぶんになりました。


 そしてすぐに、ぽろぽろとなみだがあふれてきました。


「はい……。おとうさんはいつも、うなされてをさまします。そして、おかあさんやわたしを、とってもこわい目で見るんです。

 ひどいときには、どなられるときもあります。わたしは、おかあさんといっしょに、いつもいてばかりいるんです」


 すみれはきながら、なんどもいなおしました。


 ふとがつくと……。

 トッピのよこでていたプップが、目をさましています。


「ふ~う、ふ~う」


 かなしそうなこえを出しています。

 プップにも、すみれのかなしいこころがわかるみたいです。


 すみれのはなしは、ずいぶんと長いものでした。


 すみれのおとうさんは、もともとは、とってもやさしかったそうです。


 でも、夢にうなされるようになってからは。

 すっかり、おこりっぽくなってしまったそうです。


 すみれは、「むかしのおとうさんも、こうだったの?」


 と、おかあさんにいてみました。


 するとおかあさんは、「おとうさんと結婚けっこんして、すみれが生まれるまで、いちどもこんなことはなかったわ」


 と、こたえました。


「どうやら、ムーマのしわざのようじゃな」


 トッピのむねで、ランペじいが言いました。


 フローラもトッピも、だまってうなずいています。


「ムーマって、だれ?」


 すみれは、ハンカチでなみだをふきながら、みんなに聞きました。


 でも、みんなは顔を見あわせるだけ。

 なかなかこたえてはくれません。


 なんだか、なかまはずれにされたみたい。

 すみれはかなしくなってしまいました。


「あ、またく!」


 トッピが、言わなくてもいいことを、ずけずけと言いました。


 とうとうすみれは、大声おおごえをあげて泣きだしてしまいました。


「トッピ。いじめるのは、はずかしいことなのですよ」


 フローラが、すこしきつくしかりました。

 するとトッピは、たちまちしょんぼりとなってしまいました。


「さあさあ、すみれさん。おねがいだから泣くのをやめてちょうだい。これから、ちゃんとわけを話してあげるから」


「フローラ、話してもいいのか?」


 ランペじいが、こまった顔になっています。

 どうやらフローラの言おうとしていることは、みんなのひみつみたいです。


「ムーマのしわざなら、どっちみち、すみれさんの力がひつようなんでしょう?。そうでなければ、おとうさんを助けることなんて、できませんからね。だったら、おしえてあげてもいいと思うの」


「なるほどな。では、説明せつめいはフローラにまかせるぞ。わしは、そういうの、にがてなんじゃ」


 ランペじいは好きなだけしゃべると、さっさとブローチの顔にもどってしまいました。


 人間にんげんの顔からブローチの顔にもどる。

 これはランペじいが、しらんぷりをするときみたいです。


「ほんとうに、しかたがないおじいさんね。それじゃ、すみれさん。これからわたしが言うことを、よくいてちょうだい?」


 フローラはにがわらいをすると、すみれにそう言いました。


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