第1話 転入生

 朝の光が差し込む講堂の天窓。荘厳な石造りの空間に、生徒たちのざわめきが響く。


「なんか、今日から二年のクラスに編入生が来るらしいぜ」

「え、今の時期に? もう春の始まりだってのに」

「しかも、王印付きの推挙状持ちって話だ。なんかスゴいやつらしい」


 ざわざわとした空気の中、扉がゆっくりと開かれた。


 その場の空気が静まり返る。

 ゆっくりと歩みを進めてきたのは、一人の少年だった。柔らかく栗色の髪を後ろで束ね、無駄のない所作で歩く姿はまるで一振りの剣のよう。


 それが、ハロルド・レッドバロンだった。


 学院指定の制服ではなく、白と黒を基調とした軽装の剣士服。腰に佩かれた長剣には、鍔に銀細工が施され、手入れの行き届いた風格を漂わせている。


 壇上に立った学院長が紹介を始める。


「紹介しよう。彼の名はハロルド・レッドバロン。今日から我が学院の二年生として編入する者だ」


 その言葉に、生徒たちの表情が引き締まる。


「魔法適性は持たぬ。しかし、その剣技は王国でも指折りと聞く。君たちも……彼から学ぶことがあるだろう」


 ハロルドは一礼した。


「レッドバロン家の者として、恥なき振る舞いを心がけます。どうぞ、よろしくお願いします」


 簡潔で、丁寧で、そして淡々とした挨拶だった。

 しかしその中に、一分の隙もない覚悟が宿っていた。


 壇上から降り、案内された席に着く。

 隣の席に座っていた少女が、じっと彼を見ていた。

 氷のように整った銀髪と青い瞳。目線は鋭いが、どこか知性を感じさせる雰囲気。


 少女は、わずかに口元を吊り上げた。


「クロエ・リーベル。魔導士科、二年。あなたの実力、いつか見せてもらうわ」

「機会があれば、ぜひ」


 その一瞬のやり取りすらも、どこか剣戟めいた緊張感が走っていた。


 こうして、ハロルドの学院での一日目が静かに幕を開ける。

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