第24話 チェイス練習
都市部で車が走れる道は、大きく分けて二種類。
一つは大通り。広い車道で走りやすいが、NPCの車が邪魔になることがある。さらに、見晴らしがよいため警察を撒くことが難しい。
もう一つは細道。アジトの周囲はビルや高層マンションなど様々な建物が建っており、それらの間にかなり狭い道がある。こういった道にはNPCはいないし、見晴らしが悪いため警察を撒きやすい。しかし車一台分くらいの狭さであることが多いので、その道を通るにはある程度の運転技術が求められる。
この二つの道を上手く利用しながら逃げること、約30分。
「いったんフィードバックしましょう」
「……そうだね」
アジト前の大通り。アイラの手によって俺が運転していた車は横転させられていた。
こんな感じで、もうすでに5回ほど敗北している。アイラの視界から逃れたことは一度もない。流石は経験者、といったところか。
はあ、とため息をつきながら、横転した車からキャラを降りさせる。
「そうね……運転技術は悪くないわ。綺麗にカーブできてるし。ただ、明らかに駆け引きができていないわね」
「駆け引き?」
「今のナイさんって、大通りを走る時はずっと大通りを走って、細道を走る時はずっと細道を走って、って感じなの。だからこちらからすると次の動きが簡単に読めるっていうか」
「そ、そうだったのか……」
全く意識していなかったことだ。……俺がいつもやっていた『あのジャンルのゲーム』は対戦形式ではあるものの、そういった読み合いとは縁のないゲームだし。駆け引きというのは知らなかった要素だ。
「逃げる側がルートを決められるから、主導権はナイさんにあるのよ。相手を振り回すように車を走らせなさい」
「オッケー。……良い学びになった。ありがと」
「……ふん。どういたしまして」
これ、照れ隠しってやつか。そういえばさっきアイラに注意されたっけ。可愛いとか言いなさいよって。
「えっと……可愛い反応するじゃん」」
「あなた、そんなキモいこと言う人だったのね。恥ずかしくないのかしら」
「てめえ……っ」
「冗談よ。そんな怒らせるつもりはなかったわ。ふふ」
「そうか。殴っていいか?」
「うーわ、女を殴るとかそういうこと言っちゃうんだー。キモーい。……ごめんごめん! 謝るから! だから黙って近づいてくるのやめてくれる!? あたしが悪かったから!」
全く、マジでキレているというのに。ちゃんと理解してほしいところだ。
「で……このまま休憩か? 俺はまだまだできるんだけど」
「あたしは疲れたわよ。みんな体力がすごいわね……」
ふう、とアイラは息を吐いた。
「俺は暇さえあればずっと配信してるから。日ごろから鍛えてるようなものではある」
「うげ……ナナさんと一緒じゃないの」
そういえば七瀬も長時間配信しまくってるんだっけ。今朝見た動画では配信モンスターって呼ばれてた気がする。
「アイラは休憩しながらじゃないとキツイのか?」
「そうね」
「ふーん、やっぱアレなのかな。年を取って筋力が低下したとか」
「……はは、やっぱおばさんになりつつあるのかしらね。こうして老いを感じると悲しい気持ちになるわ」
「そうやってネガティブになるのめんどくさいからやめてほしい」
「うわーん! めんどくさいって言われたー!」
「ちょっと落ち着いてよおばさん」
「ふっ、おばさん、ね……悲しい……」
「うーわ、めんどくさ」
「あたしのテンションの変化で遊ぼうとしてないかしら! 流石に怒るわよ!」
「す、すいません……」
音の鳴るおもちゃに見えて、ついやってしまった。
「あなたもアセラさんみたいに、人で遊ぶタイプなの?」
「アセラさんみたい?」
「車で人を撥ねまくるのが楽しいのか、ってこと」
「あー……」
初めてログインした時のことを思い出す。汚い笑い声をあげながら暴走しまくってたな、あの人。
……そういえばその時、俺の次に轢かれてたのがアイラだった気がしなくもない。
あの叫び声を良い音だとアセラさんは言っていたけど、俺も同じ感想を抱くのだろうか。
「アイラがとんでもない不幸に遭ったりしないかなあ」
「そんなこと言わないでくれる!?」
しまった。癖の独り言が出てしまった。
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