甘い罠

昼月キオリ

甘い罠


耕介(こうすけ)が家に帰ると、妻の未咲(みさき)が襲われていた。

抵抗している妻は泣きながらこう叫んだ。

「助けて耕介」

耕介は頭に血が上り、キッチンのテーブルの上にあったナイフを持って相手の男を刺した。


男は死んで旦那は逮捕された。


耕介は私を犯罪者の妻にしたくないと離婚しようと言ってきた。

未咲は言い返したが耕介の意思は固かった。

そういう旦那の優しさと意志の強さを妻は知っていた。


一人になった未咲は寝室のベッドに座った。

携帯を開くと一通のメールが届いていた。

「今から会えないか」と。

未咲はすぐに着替え、ある人の元へと駆け出した。



未咲「冬馬(とうま)さん」

冬馬「未咲ちゃん、旦那さんが逮捕されたんだって?」

未咲「ええ・・・私を襲った元カレを刺したの」

冬馬「旦那さんとは?」

未咲「別れてくれって言われたわ、君を犯罪者の妻にしたくないからって言って、私はそれでもいいって言ったんだけど彼、意思が堅くて」

冬馬「そうか、それは辛かったね」

未咲「ええ、それはもう死んでしまいたくなるほどに」


冬馬は未咲を抱き締めた。


未咲「だめよ、冬馬さん、私まだこんな状態なのよ?」

冬馬「ああ、こんな時に不謹慎だな、だが許してくれ、他に慰める方法が分からないんだ」

未咲「いいのよ、でも、私これでひとりぼっちね」

冬馬「僕がいるよ」

未咲「冬馬さん・・・」

冬馬「これからは僕が君を守るから」

未咲「ありがとう・・・」

 


あの事件は偶然じゃない。

仕組まれたものだ。

そのことを知る人は私以外誰もいない。

 


未咲は冬馬と付き合う為にこの事件を仕組んだのだった。

自分に未練があった元カレをわざと刺激して自宅で襲わせた。

近くにわざとナイフを剥き出しに置いておいた。

後は旦那が帰って来たタイミングを見計らって助けてと叫ぶだけ。

全ては妻の計画通りだ。



そうよ、女っていうのはね、好きな男を手に入れる為だったらなんだってできるのよ、例えそれが悪魔に魂を売る行為だとしてもね。



そう言って彼女は彼に肩を抱かれ、相合傘をしながら歩き出した。

霧が降るこの街のどこかへ彼女と彼は姿を消した。



事件が闇に包まれ、真実が消えてしまったかのように。

ポツリポツリと滴る雨の雫だけが真実を物語っていた。

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甘い罠 昼月キオリ @bluepiece221b

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