第2話 現金確保と在庫一掃作戦
「フィオナ、今の在庫状況を教えてくれ。」
俺はまず、現金を増やすことに集中した。借金の返済を先延ばしにしても、支払いができなければ即倒産だ。
この世界も現代と同じく、「現金がない=死」である。
「こちらが現在の在庫です、坊ちゃま。」
フィオナが差し出した帳簿には、雑貨や生活用品、衣料品、そして――全く売れていない謎の商品がずらりと並んでいた。
「……この『陽光香』ってなんだ?」
「芳香剤のようなものでございます。数年前に流行りましたが、今はまったく売れておりません。」
在庫量:500個
仕入れ価格:1個3ゴールド
販売価格:1個5ゴールド(だが誰も買わない)
「……完全に不良在庫じゃないか。」
粗利2ゴールドの商品を、500個も塩漬けにしている。これは金が棚に眠っているのと同じだ。いや、眠ったまま腐っていくゴミだ。
俺は在庫リストをさらに確認し、低回転商品を赤ペンでどんどんマークしていく。
■不良在庫リスト
陽光香 →500個
変色した装飾品 →80個
季節外れの防寒具 →120着
古いデザインの食器 →200セット
合計:およそ1,000ゴールド分の資産が凍結されている。
「……これを即座に現金化する。」
「で、ですが、今の相場では半値でも売れません……!」
「売れないなら、売れるように“見せる”んだ。」
俺は現代の「プロモーション戦略」を持ち込む。
■仕入れ原価ギリギリで特売を仕掛ける
■あえて『期間限定・閉店セール』を打ち出し、希少性を演出
■『まとめ買いで割引』というクロスセルを狙う
■陽光香を“幸運を呼ぶ香り”として新たにストーリー付加(マーケティング再設計)
「……幸運を呼ぶ?」
「いいか、この“陽光香”は、ある高名な錬金術師が“幸運の儀式”で使っていた――という物語を今から流す。」
「え……それって……坊ちゃま、それって……嘘では?」
「いいや、これは“新しい価値の再発見”だ。」
現代でいう“広告戦略”は、商品に物語を与え、消費者の心に訴えるのが基本だ。
見た目がダサい?
使い道がない?
構わない、“それが流行っている”と周囲が思えば、商品は売れる。
フィオナは半信半疑だったが、妹のライナがぽつりと言った。
「兄様……おもしろい、かもしれません。」
「よし、ライナには会計を頼む。広告費を予算化してくれ。フィオナ、あんたは市場に出て、ライバル商会の動きを監視だ。」
「はい、坊ちゃま!」
「了解です、兄様!」
こうして、クロウ商会は異世界初の“マーケティング戦略”を用いて、不良在庫を一掃する閉店セール風キャンペーンを打ち出した。
────
数日後。
「坊ちゃま!陽光香、完売いたしました!」
「まとめ買いの防寒具も売り切れです!」
まさかの爆売れだった。
“幸運を呼ぶ”という噂は市場に広がり、陽光香は再ブームを巻き起こした。
手元に残ったのは――現金650ゴールド。
在庫処分だけで、600ゴールドのキャッシュを生み出した。
だが、ライバル商会の御曹司――バルドは、冷笑していた。
「クロウ商会?ふん、小手先の在庫処分で一瞬の金を得ただけだ。市場を支配しているのは、結局……我々バルド・トレーディングだ。」
彼は、すでに次の一手を打ち始めていた。
次の戦場は――仕入れルート争奪戦。
「よし、次は『物流の支配』だ。」
在庫一掃で現金を確保した俺は、次なる戦略を練り始める。
異世界経済戦争は、まだ始まったばかりだ。
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