異世界転生から始める経営・経済・金融学

雪風

第1話 転生、そして借金まみれの商会

俺は、死んだはずだった。


ブラック企業で過労死寸前の激務をこなした挙句、徹夜明けに机で眠ったまま――心臓が止まったのだ。


だが、目を開けた俺が見たのは、見慣れたオフィスではなく、薄暗い木造の屋敷だった。


「坊ちゃま、お目覚めですか?」


メイド姿の少女が涙を浮かべていた。


「坊ちゃま……ご無事で、本当に良かった……!」


俺は、目の前の少女を見つめ、そして……自分の手を見た。


細く、まだ成長しきっていない十五、六の少年の手。見知らぬ姿。……俺は、どうやら異世界に転生したらしい。


状況を整理すると、俺はこの世界で『クロウ商会』という零細商会の三男坊、セイジ・クロウとして生きているようだ。


だが、幸運はここまでだった。


「……三千ゴールドの負債だと?」


俺は、父が残した帳簿を見て、絶望した。


──借金まみれの倒産寸前の商会。

──ライバル商会による市場支配。

──王国の高額な関税。

──物価の上昇とインフレ。


俺は、経営破綻寸前の零細商会の三男として目を覚ましたのだ。


『よし、やろう。現代の経済知識で、異世界を攻略する。』


そう決意した俺は、まず「この世界の貨幣制度」と「商会のキャッシュフロー」を調査することにした。


◆クロウ商会の財務状況(現状分析)

売上:月500ゴールド(生活用品、雑貨が中心)


営業費用:月480ゴールド(仕入れ、人件費)


利益:ほぼゼロ


借金:3,000ゴールド(年利5%)


現金:手持ち20ゴールド


利益率が低すぎる。営業利益率で言えば、わずか4%。


しかも、ライバル商会『バルド・トレーディング』が同じ市場で価格破壊を進めている。ここで普通に営業していたら、時間の問題で潰されるだろう。


「俺がやるべきことは、まず“キャッシュフローの改善”と“収益の柱の確立”だ。」


異世界だろうが経営の基本は同じだ。


損益計算書(P/L)で利益構造を把握し、


貸借対照表(B/S)で財務体質を確認し、


キャッシュフロー計算書で資金繰りを安定させる。


経営戦略論、原価管理、資金調達、ブランド構築、差別化戦略、物流改善、税制優遇の利用。


現代で学んだあらゆる知識を、この世界に実装してやる。


──俺は、絶対にこの商会を立て直す。


「フィオナ、ライナ。これからは、俺がこの商会を引っ張っていく。」


「……坊ちゃま、何かお考えですか?」


「ああ、まずは現金の確保だ。赤字商品の処分、市場調査、そして……信用取引の開始だ。」


魔法も剣もない、だが俺には“経済”がある。


異世界転生経営戦争、ここに開幕──!

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