第50話 黒い霧の女
昭和48年、雨の降りしきる新宿裏通り。
闇市の残滓をかすかに残すその路地を、ヒールの音を響かせて歩く女がいた。山末涼子――警察にも顔を知られたトラブルメーカー。喧嘩は日常、ナイフを懐に忍ばせ、男相手にも容赦しない。白いレインコートの下には、血の跡すら隠しきれない黒のワンピース。
「この街にゃ、信じられるもんなんてねえんだよ」
涼子は煙草をふかしながら呟いた。
そんな彼女が、ある夜、“黒い霧”に遭遇する。
それは実際に発生した事件だった。深夜、霞ヶ関に近い政治家の別宅で火災が起き、同時に複数の元官僚が不可解な死を遂げた。すべての現場には黒い煤けた霧が立ち込めていたという。そしてそれは徐々に、一般市民の生活にも忍び寄ってきていた。
新宿の路地裏――涼子の親友だった情報屋・尾崎が、口封じとみられる撲殺死体で発見される。
現場には「K2」と刻まれた謎のメモ。
涼子は、尾崎の死の真相を追ううちに、元公安の男・志村誠司と出会う。彼は言う。
「“黒い霧”ってのは、ただの事件じゃねえ。戦後から続く“裏帳簿”の焚書と、人間の記憶を消すプロジェクトだ。お前が追ってるのは、触れちゃいけねえ過去なんだよ」
涼子はナイフを片手に笑った。
「触れちゃいけねえもんほど、私は触りたくなるのさ」
彼女が追う先には――失われた国家機密、逃亡中の元大臣、そして自分自身の出生にまつわる衝撃の事実があった。
――新宿、深夜2時。
地下ジャズバー「イレヴンス・コード」で、くだを巻く男たちの笑い声が、霧のように天井にこもっていた。
「あいつ、知ってるか? 山末涼子。昔は“世も末涼子”って言われてたんだってよ。ガキの頃から気が立ってて、まともに学校も行けなかったらしいぜ」
「バカな女ほど、ナイフ振り回して自分を強く見せようとするもんよ」
その声を、涼子は聞いていた。
カウンターの隅で、グラスの縁を指先でなぞりながら。
「……あんたたち、まだ生きてると思ってるの?」
その瞬間、刃が光った。
ひとりは喉を裂かれ、もう一人は太腿の大動脈を切られた。悲鳴は音楽にかき消され、ジャズのベースラインに溶けた。
数分後、地下バーは血の香りで満たされていた。
涼子は黒いレインコートを羽織り直し、遺体を踏みつけながら店を出た。
---
数日後――。
警視庁組対四課が涼子を追っているという情報が流れる。彼女は、裏社会に顔が利く「西部デンジャーズ」のオーナーでもあったが、あまりに派手な動きと“黒い霧”事件への接近が、警察とヤクザの両方に目をつけられる原因となっていた。
「……潮時か」
古びた事務所で、涼子は辞表代わりの銃弾をデスクに置いた。
幹部たちがどよめく中、彼女は一言だけ残した。
「“黒い霧”を消すまで、私はただの女に戻るよ。ナイフと名前だけ持ってな」
その目に、もう迷いはなかった。
かつての蔑称――“世も末涼子”は、もはやただの悪口ではなかった。それは、腐りきったこの世に刃を向ける、一匹狼の“名乗り”となったのだ。
――新宿・歌舞伎町、裏通りの廃神社。
山末涼子は、血まみれのコートを脱ぎ捨て、ひとり朽ちた鳥居の前に立っていた。黒い霧事件の真相に近づくほど、彼女の周囲から人が消えていった。友も仲間も裏切り、信じられるのは己の刃だけ。
「……これが“オルフェウス・ゼロ”の入り口だってんなら、試してやるよ」
境内に佇む、破れた狛犬とひび割れた鏡石。その鏡石に血のついたナイフを突き立てた瞬間――
空が裂け、世界が歪んだ。
耳鳴りとともに、目の前の景色が変わる。繁華街のネオンが消え、代わりに燃え上がる砦と、戦の火薬の匂いが漂う。
---
気がつけば、彼女は見知らぬ山中に倒れていた。
――そして、目の前を駆けるのは、鉄の鎧を身に纏い、槍を持った武者たち。
「くっ、あの娘、生きておるぞ!間者か!」
「斬れ!」
斬りかかってくる足軽に対し、涼子は躊躇なくナイフで応戦。1人の喉を裂き、もう1人の顔面に膝を入れ、奪った槍でトドメを刺す。
「……戦国時代、か……!」
彼女は即座に状況を把握した。生き残るには、武具が必要。
その場に倒れた侍の兜と鎧をむしり取り、血塗れの戦装束を身に着ける。そして、腰の脇差を奪い、初めて“刀”という武器の重みを掌で感じた。
「銃もスマホもねえ……でも、こっちの方が性に合ってる」
夜――。
涼子は、焚き火の前で己の鎧をじっと見つめた。
その兜には、かすれた家紋が刻まれていた。
> 【三つ巴・伊賀忍】
「フッ……いいじゃねえか。忍でも鬼でも、やってやるよ」
彼女はやがて、「戦場の
時代も場所も関係ない――殺すべき相手がいる限り、山末涼子は刃を抜く。
時を超えた転落、そして邂逅
佐々木は、興奮と困惑が入り混じったまま、熱狂的な野球場にいた。タイムマシンは彼を過去へ送り、自身のルーツと、彼が陥れた宮本武蔵(野球選手)のルーツが交錯する場所へと導いたようだ。彼は、純粋な感動を覚える一方で、自身のギャンブルと宮本を陥れた過去が、まるで遠い出来事のように感じられた。
夜も更け、路地裏で賊に襲われた佐々木は、偶然手にした未来の圧縮バットで反撃した。そのバットは、まるで圧縮された空気を纏っているかのように強力な一撃を放ち、賊たちを圧倒する。彼の身体には、かつてのギャンブル狂いにはなかった、研ぎ澄まされた集中力と鋭い感覚が漲っていた。
佐々木は、その後もタイムマシンで時空を彷徨い続け、1985年の猛虎フィーバーの熱狂に巻き込まれる。人々の純粋な喜びと一体感に触れ、彼は自身のギャンブルによって失われたもの、そして宮本武蔵の純粋な野球への情熱を踏みにじった過去と向き合い始めていた。
現れた「鬼女」
猛虎フィーバーの熱狂から抜け出し、佐々木は再びタイムマシンに乗り込んだ。彼の意識は、もはや過去を変えることではなく、自分自身と向き合うことに向いていた。だが、タイムマシンは彼の意図とは関係なく、また別の時代へと彼を運んだ。
激しい光に包まれ、次に佐々木が目を開いた時、彼の目に飛び込んできたのは、荒涼とした戦場の光景だった。焦げ付いた土の匂い、血と鉄の混じり合った異臭。遠くからは、ひどく耳障りな、機械的な笑い声が響いている。
「ここは……どこだ……?」
彼の足元には、散らばった兜や刀の破片が転がっている。まるで、遥か昔の戦国時代に迷い込んだかのようだった。しかし、その光景は、彼が歴史の授業で習ったものとは、明らかに異質だった。空には奇妙な色の光が渦巻き、大地は不気味な紫色に染まっている。
そして、その禍々しい空間の中心に、一人の女が立っていた。
彼女は、まがまがしい紫色の甲冑を身につけ、その体からはおぞましいオーラが立ち上っている。顔は美しく整っているものの、その瞳は血のように赤く、狂気に満ちていた。特に目を引いたのは、その頭部に生えた、まるで鋭利な角のような二つの突起だ。その姿は、かつて佐々木がテレビで見た、宇宙の帝王フリーザを彷彿とさせた。だが、その背後には、異形の兵士たちが無数に控えている。
「ふふふ……ようやく来たか、この時代にも『歪み』の種が……」
女は、佐々木を見つけると、不敵な笑みを浮かべた。その声は、人間とは思えないほど低く、地獄の底から響いてくるかのようだった。佐々木の脳裏に、かつてタイムマシンが映し出した「お通」の顔がよぎる。あの時の歪んだ映像と、この女の姿が重なる。
(まさか……あれが、この女の正体なのか……!?)
その時、女の口から、佐々木にとって衝撃的な名前が発せられた。
「我が名は巴御前。この世の全ての『歪み』を、この手で『浄化』する者!」
巴御前。伝説の女武者。しかし、目の前の彼女は、歴史に記された巴御前とはあまりにもかけ離れた、悪魔のような存在だった。彼女の体から放たれる圧倒的な威圧感に、佐々木の足はすくんだ。
「お前も、その『歪み』に塗れた魂を持つ者……ここで、朽ちるが良い!」
巴御前は、佐々木に向かって手をかざした。その掌から、禍々しい紫色のエネルギー弾が放たれる。佐々木は、身の危険を察し、反射的に地面に転がっていた圧縮バットを構えた。
「くそっ……! こんな化け物相手に……!」
佐々木は、震える手でバットを振り抜いた。彼の身体に漲る不思議な力と、圧縮バットが放つ見えない衝撃波が、巴御前のエネルギー弾と衝突する。爆発音と共に、土煙が舞い上がった。
彼は、自分が野球選手・宮本武蔵を陥れたことで、この異次元の戦いに巻き込まれたことを、ようやく理解し始めていた。この悪夢のような状況を生き延びるには、この「圧縮バット」と、彼自身の内なる「力」に賭けるしかない。
佐々木は、このフリーザのような巴御前とどう戦うのでしょうか? そして、彼が持つ「圧縮バット」と、彼自身の「力」は、この異形の敵にどこまで通用するのでしょうか?
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