第46話 秘密兵器、圧縮バット!

 佐々木は、興奮と困惑が入り混じったまま、その熱狂的な野球場にいた。タイムマシンは、彼をただ過去へ送るだけでなく、彼自身のルーツと、彼が陥れた宮本武蔵のルーツが交錯する場所へと導いたようだ。彼は、夢中で試合を観戦した。目の前の宮本武蔵(野球選手)の父親は、想像以上に力強く、そして純粋に野球を楽しんでいるように見えた。

 試合が終わり、球場は興奮冷めやらぬまま、少しずつ観客が減っていく。佐々木は、人混みに紛れてベンチ裏へと向かった。そこで彼は、伝説の選手たちが談笑しているのを目撃した。彼らは皆、野球を心から愛し、その一球一打に情熱を燃やす、本物の野球人だった。

 佐々木の心に、今まで感じたことのない奇妙な感覚が沸き起こった。それは、彼がギャンブルに溺れ、宮本武蔵(野球選手)を陥れて以来、すっかり忘れていた、純粋な「感動」だった。


 圧縮バットの戦い

 夜も更け、佐々木は人気のない路地裏を歩いていた。頭の中では、昼間の試合の光景がぐるぐると渦巻いている。その時、暗がりから複数の人影が現れた。

「おい、そこのおっさん。いいもん持ってそうじゃねぇか」

 男たちは、明らかに佐々木を狙っている。彼は、一瞬にして現実へと引き戻された。ここは過去。そして、彼は金目のものを持たない、ただのタイムトラベラーだ。

「悪いが、金は持っていない」

 佐々木は、震える声で答えた。男たちは、そんな佐々木の様子を嘲笑うように、ゆっくりと間合いを詰めてくる。絶体絶命の状況。その時、佐々木の足元に、何かが転がっているのに気づいた。

 それは、野球場から持ち出されたものだろうか、一本の金属バットだった。普通のバットよりもずっしりとした重みがある。彼は、反射的にそれを拾い上げた。

「へっ、バットなんざで何ができるってんだ?」

 男たちは、佐々木を小馬鹿にする。だが、佐々木の脳裏には、昼間の野球の光景が鮮明に焼き付いていた。あの、宮本武蔵の父親がバットを構える姿。あの、一振りで球場を揺るがした、強烈な打球の残像。

 佐々木は、意を決してバットを構えた。彼自身に野球経験はない。しかし、かつてエージェントとして選手のフォームを研究し、数えきれないほどの打撃練習を見てきた経験があった。そして、何よりも、彼の祖先が剣豪・佐々木小次郎であるという、血の記憶が、彼の身体に眠る何かを呼び起こしたのかもしれない。

「かかってこい……!」

 男の一人が、佐々木に飛びかかってきた。佐々木は、無我夢中でバットを振り抜いた。鈍い音が響き、男の体が宙を舞う。それは、彼が知るどの金属バットよりも、はるかに強力な一撃だった。

「な、なんだこりゃ……!?」

 他の男たちも、驚きに顔を歪ませる。佐々木が手にしているのは、どう見ても普通の金属バットではない。彼の目には、そのバットが、まるで圧縮された空気を纏っているかのように見えていた。そう、それは、この時代の技術では考えられない、未来の圧縮バットだったのだ。

 佐々木は、戸惑いながらもバットを構え直した。 彼の身体に、不思議な力が漲ってくるのを感じる。それは、ギャンブルに溺れていた頃の彼の身体にはなかった、研ぎ澄まされた集中力と、獲物を狙うかのような鋭い感覚だった。

 男たちは、顔を見合わせる。この「おっさん」は、ただの獲物ではない。彼らは、警戒しながらも、再び佐々木を取り囲んだ。

 佐々木の心臓が、激しく高鳴る。野球とは無縁だった彼が、今、バット一本で賊と対峙している。タイムマシンが彼を連れてきたのは、単なる過去ではなかった。それは、彼自身の「過去」を清算し、新たな「未来」を切り開くための、試練の場なのかもしれない。

 佐々木は、この圧縮バットと、そして自身の新たな感覚を使って、この窮地をどう乗り切るのでしょうか? また、彼がこの時代で得た経験は、彼自身のギャンブル癖や、宮本選手を陥れた過去とどう向き合わせるのでしょうか?

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