第44話 時空の狭間
佐々木は、狂乱の中でタイムマシンの計器を叩き続けた。しかし、時空の渦は止まることなく、彼の憎悪と混乱を巻き込みながら、どこまでも加速していく。モニターに映し出されたお通の顔は歪み、やがてノイズに掻き消された。
「くそっ……! なぜだ……! なぜこんなことに……!」
彼の復讐計画は、思わぬ形で頓挫した。過去を変えるどころか、歴史の闇に隠された真実の一端を垣間見てしまったのだ。そして、タイムマシンは制御不能のまま、どこかへと向かっていた。
やがて、激しい振動が収まり、タイムマシンの窓の外には見慣れない景色が広がっていた。それは、2025年の日本とは似ても似つかない、古びた、しかし活気のある街並みだった。だが、彼の耳に飛び込んできたのは、驚くほど聞き覚えのある声だった。
マシンガン打線の幻影
佐々木がタイムマシンのハッチを開けると、焦げ付いた土の匂いと、熱狂的な歓声が飛び込んできた。彼は、その光景に目を疑った。目の前に広がるのは、古めかしい野球場だった。
「おおおおお! 行けぇ! マシンガン打線!」
地響きのような声援が、佐々木の耳に届く。彼は、その声に導かれるように、球場の方向へと歩き出した。そこで彼が見たのは、想像を絶する光景だった。
打席に立っていたのは、見慣れた顔だった。しかし、彼の知る野球選手、宮本武蔵ではない。顔つきは確かに似ているが、醸し出す雰囲気はまるで違う。がっしりとした体躯と、鋭い眼光。彼は、バットを構え、まさに球を打ち抜かんとしていた。
そして、その宮本の後ろに続く打順には、さらに見覚えのある顔が並んでいた。往年のプロ野球選手たち。彼らは皆、現役を退いているはずの、伝説の選手ばかりだ。まるでタイムスリップしたかのように、彼らは全盛期の姿でグラウンドに立っていた。
「……ま、まさか……マシンガン打線……!?」
佐々木は、呆然と呟いた。それは、かつてプロ野球界を席巻した、猛打を誇る打線の愛称だった。彼の知る、野球選手・宮本武蔵の父親が、その打線の中心選手だったという話を、佐々木は幼い頃に聞かされたことがあった。しかし、それは遠い昔の、伝説のような話だと思っていた。
その時、打席の宮本が、快音を響かせた。打球は一直線にライトスタンドへ飛び込み、ホームランとなった。
「よしっ! 武蔵、よくやった!」
ベンチから、ひと際大きな声が聞こえた。その声の主は、間違いなく、佐々木が知る野球選手・宮本武蔵の父親だった。彼は、若い頃の面影を残しながらも、ベテランの風格を漂わせ、息子――いや、この時代の宮本武蔵――の活躍を喜んでいた。
佐々木は、理解に苦しんだ。ここは一体いつの時代なのか。なぜ、伝説の選手たちがここにいるのか。そして、この「宮本武蔵」は、一体誰なのか。
混乱の中、佐々木はポケットの中のスマートフォンに目をやった。しかし、電波は全く入らない。彼は、タイムマシンが予想もしない時代、そして場所に彼を連れてきたことを悟った。
佐々木の復讐計画は、まるで時空のいたずらのように、彼自身を過去の野球の熱狂へと放り込んだのだ。彼は今、自身の祖先と宮本武蔵の因縁、そして野球選手・宮本のルーツが交錯する、歴史の迷宮に迷い込んでいた。
佐々木は、この時代で何を目撃し、何を学ぶのでしょうか? そして、彼自身のギャンブル癖と、宮本選手を陥れた過去は、この「マシンガン打線」の時代とどのように関連していくのでしょうか?
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