祈り

ヤマ

祈り

 そのゲームは、妙に話題を呼んでいた。


 世間では、「祈りゲー」と言われていた。

 意味がわからない。


 好奇心に負け、プレイすることにした。



 ブラウザで無料でできるとのことだったので、ページにアクセスする。

 躊躇いなく、スタートボタンを押した。



 ゲームは、評判通りのものだった。


 RPG風のターン制バトルなのだが、戦闘と呼べるものではなかった。


 唯一のコマンドは、「祈る」。


 選択すると、操作キャラクターが目を瞑り、エフェクトが現れ、あらゆる困難が解決する。


 敵と遭遇したら、祈る。

 道が塞がれたら、祈る。

 セーブ代わりに、祈る。


 何をするにも、とにかく、祈る。


 それが、唯一のインタラクト手段だった。



 最初は、馬鹿らしいと思った。


 「祈るだけなんて、ゲームじゃない」と。


 だが、いつの間にか、夢中になっていた。


 エフェクトの美しさに惹かれた、という点もある。

 「祈る」という操作に、他のゲームでは味わえない神秘性もあった。


 だが、それ以上に。


 思考が必要ない。

 判断を放棄できる。


 何も考えず、ただ祈ればいい。


 それは、ある種の快楽だった。



 そして、ゲームは、派手な演出等もなく、エンディングを迎えた。





 それから、何かが変わった。


 電車が遅れても、上司に理不尽に怒られても、自然と目を閉じる癖がついた。


 朝のニュースで嫌な事件を見ても。

 友人の不幸な話を聞いても。


 気が付けば、僕は、ただ祈っていた。


 街で、同じような人を見ることも増えた。

 家族にも伝染した。

 恋人にも、職場にも。


 皆、困難に直接的、あるいは間接的に遭遇するたびに、目を瞑っている。


 誰も疑問を口にしない。


 ただ、「祈る」という解決法に、深い安心を覚えているようだった。





 ある夜、夢を見た。


 真っ白な空間。


 けれど、人の形をした何かが、目の前にいるのがわかった。


 のようなものにより、目も、口も、鼻も見えない。


 ただ、全身で「喜んでいる」のがわかる。


 その何かが、静かに動いた。



「すべては、望み通りに果たされた」



 声はなかった。

 ただ、意識の奥に、言葉が続けて響いた。











汝らの祈り、確と受け取ったThank you for praying

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祈り ヤマ @ymhr0926

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