後輩と先輩 その1
「ん?メール?誰から…貴戸君か、それで何々?……これまた面倒な…場所は…」
群馬下層内包ダンジョン、その中層の階層門の入り口前には見覚えのある金髪の青年が居た。
「あっ、山神先輩こっちです」
「やぁ、貴戸君久しぶり、
「あぁ…あの時の話はやめてください…あまり思い出したくない…」
2ヶ月前、
「ふっ…我には汚れ仕事など似合わない、だから世に僕の美しく気品のある姿を広めてこの仕事から脱却するのさ!」
「あー、あれのせいで配信なんか始めたのか」
彼の探索者としての実力は平均より上なのは確かだ。だが、どこか軽く、よくミスや損な立場に回っては誰かしらによく慰められている。
「にしてはまた大変な依頼受けてるようだけど」
そう、今回の掃除対象は
「これは…そう!我の雄姿を魅せて未来の足がかりを掴むための…」
「配信に写すなら俺は降りるよ」
「嘘です!!不義理にできなくてなし崩し的に請け負っちゃいました!手伝ってください!!」
「よし、あと一つ、これの報酬なんだけど」
「はい!」
「君のチャンネル名の変更で手を打とう」
「え!?なんでですか!!こんなに僕に相応しい名前もそうないでしょう!!」
「…まぁある意味似合ってるけどあれは無い。鷹岡さんも微妙そうな顔してたよ」
「スゥー、じゃあせめて!名前決め、手伝ってくださいよ!難癖つけるなら!」
「……まぁ確かにそうか、一案ぐらいなら…まぁ出すよ」
そうこうしながら、群馬ダンジョンの中層に降りる。チャンネル名を指摘されたからか頭をがっくしと垂らした貴戸君の横に並び、周りを見渡す。ここら辺のダンジョンは総じて密林地帯などの環境形態が多く見晴らしがクソ悪い。なんならこの中からピンポイントに特定の植物モンスターを探して掃討とか正気の沙汰じゃない。ん?今日の参加者って俺達だけだよな?もしかして貴戸君嫌われてる?
「貴戸君、最近お偉いさんになんかやらかしたりした?」
「え?どうしてです?」
「いや、何でもないよ気にしないで」
結構、神経図太いよね彼。
「ところで先輩、1つ後学のために聞きたい事があるのですが」
「何?分かる範疇なら答えるよ」
「今日の掃除対象って普通こんなに増えないですよね?なんで今回はこんなことになったのかいまいちピンと来てなくて」
「あー、それならすごいシンプルだよ」
「ダンジョンって各層のパワーバランスって決定的な差があって深いほど強いし基本各層でモンスターのバランスは取れている。浅い層のモンスターが深い層に行く分には淘汰されて終わり。だけどその逆はそうとはいかない。周りの生態系を蹂躙して一気に成長する。」
「…要は天敵が居ないからのびのび成長してこうなったと?」
「…百点」
俺よりシンプルにまとめないでよ。説明ぽく講釈たれたのバカらしいじゃん。
「ていうか、ちまちま倒すのも面倒だな…これどうするプランだったの貴戸君」
「それなんですけどまだ早い段階で発覚して増殖した成体の個体もまだいなかったのでこれで大元を断とうかと」
そう言うとストレージから変に凝った装飾の楔を取り出す。
「おっ、断絶の楔じゃん。ちゃんとしてるね」
断絶の楔、刺した対象と概念的に結び付いてる物の繋がりを断てるマジックアイテムの1つ。
「先輩にはこれを刺すまでのサポートと取りこぼしの駆除を手伝って貰います。」
「じゃあ俺が今、刺してくるから貴戸君は駆除始めてて。能力的にそっちのが効率良いし」
貴戸君の手から楔をひったくり【天狗の才】で飛ぶ。
「ちょっと先輩…まぁ良いか、先輩が居ないなら配信を……いや、約束破ったら罰が当たる」
頭を振り浅はかな考えを捨てる。ストレージからもう一つ、チェスボードのような物を取り出す。
「セット、【白亜の遊戯盤】」
***
「貴戸君」
「はい…」
「何あの
「すいません!!」
お互い毒を頭から被り、ダンジョンゲートまで戻ってきていた。
「毒耐性無かったら今頃全身焼け爛れてるよこれ」
「…僕は耐性のレベル上がりました」
「「…………」」
「後始末はチェッカーズに任せるとして…貴戸君」
「はい…」
「飲み行くよ、そこで今日の報酬払ってもらうよ」
「…はい」
「あと、結局汚れちゃったね」
「…それは言わないでください」
***
「先輩、これならどうですか?【ダンジョン王子の栄光チャンネル】」
「無し、と言うかあんま変わってない」
「じゃあ先輩ならどう付けますか!」
「名前をカタカナにでもしてキドのダンジョン攻略チャンネルとかでいいじゃん」
「つまらないですよそんなの!!」
「自分で王子とかイケメンとか付けるよりはマシだろ、誰にも呼ばれてない自称に拘るな」
「くぅっ……あ、鷹岡さんもそっちに…わかりましたよ!!変えますよ!!」
「よろしい」
せっかく群馬に来てるならと草津で温泉に入り晩酌がてら報酬を貰っていた。ついでとばかりに仕事中の同業者鷹岡さんにチャンネル名の案をチャットで投げ、意見を聞いた。
「そういえば先輩、最近奥多摩ダンジョン行きました?」
奥多摩ダンジョン、それはこの前、ゴキブリダンジョンから繋がっていた扉の開通先になっていたダンジョンがそこだったはずだ。
「行ったけど…それがどうした?」
と刺し身をつまむ。
「ネットニュースになって破魔の矢がレア落ちしてましたよ」
「うぐっふっげぇふっ……マジ?」
「大マジです。しかも女の子を助けたでしょう?その方、あの【桜の姫様】が可愛がってる後輩だそうで摩天楼が探索者間であなたを探してます。」
「……もしかして俺のこと売った?」
「…僕がそんな事する奴だと思ってるんですか?」
「ごめん、どっちかと言うと鷹岡さんの方がぽろっと言いそうだわ」
「素面なら良いですけど酔うとすぐ人に気を許しますもんね鷹岡さん」
「ちゃんとそれ自覚してるから大人だよね鷹岡さん」
「…話逸れましたけど摩天楼と八武にはしばらく近寄らない方が良いですよ」
「ありがとう貴戸君」
後輩のやさしい忠告を貰いつつ、ふと思い出したことを聞く。
「そういえば、コラボ配信とかしたことあんの?」
「いえ、まだありません。僕に合う方なんて中々いないでしょう?」
「そうか?身近に1人居るじゃない、ネット活動してる同業仲間」
「…もしかして須田先輩の事を言ってます?」
「うん」
「炎上しますよ!?特に僕の方が!!」
「その方が逆にちょうど良くない?注目浴びれるし別にバレて困る仲でもないし」
「あの人、優しいし頼めばコラボしてくれるでしょ」
「ですけど!!初コラボが異性で…しかもあのグループの人ですし…」
「何があのなの?貴戸君」
貴戸君の背後から優しく、それにどこか困りと圧が混じる声がした。
「……須田さん、どうしてここに?」
「山神君に『貴戸君と一緒に飲むのでどうですか?』って誘われたからだけど?」
「謀ったな先輩…!」
「何が?」
渾身のしらけ顔を向ける。
彼女が後ろにいると知らずにあれこれ正直に言ってた姿は滑稽だったぜ後輩?
配信の相談なら配信の先輩に聞くのが道理でしょ。
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