2人の「最強」
静寂。
時が止まり、閉ざされた空間である。
音の響かない舞台にナイチンゲールは1人、ヴァイオリンを構え佇んでいた。
舞台とは名ばかりの寂寞の白、ここが彼女の主戦場である。
ふと、薔薇の香りが鼻先をくすぐった。
「美しくない!美しくないわ!」
揺れるはずのない空気が力強い声に震える。
ブーゲンビリア・ラ・ローズが纏う真紅の炎のドレスがしじますら焼き付くさん勢いで肉薄するとそのステップの一つ一つが意志を持った炎のようにナイチンゲールを襲う。
対するナイチンゲールが弦を弾くたびにローズの纏う焔がチーズを切り分けるようにするりするりと切り取られていく。
なぜ2人が競演をしているのか知る者はいない。
ただ凄まじい戦闘だけがそこにあった。
ナイチンゲールの“白”がローズの領域を削り取り、ローズの“紅”がナイチンゲールの領域を侵食する。
世界同士がぶつかり合うほどの戦いは、しかしお互いに決定打もなく永遠に続くかと思われた。
「音のない舞台だなんてなんて退屈で美しくない!」
ローズが叫ぶ。
「あなたは表情が派手すぎる」
ナイチンゲールが売り言葉に買い言葉で答えた。
「あなたが無表情すぎるだけですわ!」
「む」
ふと、お互いの動きが止まった。
静寂の中肌を撫でるのは感じるだけで嫌悪感を煽る独特な気配。
「あなたは...戻りなさい、“影”が押し寄せてくる」
突然の来客にさして驚いた様子もなくナイチンゲールはただそう忠告した。
「あら、1人芝居なんて退屈ですわよ?ここはひとつ、あたくしにお相伴に預からせていただけないかしら」
息を切らしながらも友人を食事に誘うような気軽さでいうローズに
「かの灼熱の美学家の歌声を聞かせて頂けると?」
と意外にもこちらも軽口で答えた。
「残念、あたくしの歌を聞いた者は感動で皆死んでしまいますの」
挑戦的な笑みでナイチンゲールに眼差しを送る。
そうこうしているうちに2人を囲む黒い影の円がようにジリジリとその直径を狭めていた。
距離にしておよそ10メートル、お互いにこれ以上不毛な言い争いをしている暇は無さそうだ。
ナイチンゲールは軽くため息を吐くと
「であれば」
ヴァイオリンを構え直した。
弦に弓を乗せると準備万端とでも言うようにギッとヴァイオリンが応える。
「お互いのやり慣れた方法がいちばん良い」
それを聞いたローズは口角を大いにあげて笑顔を作ると踊り始める時お決まりの構えを取った。
力強くも流麗、その構えひとつにローズの生き様を濃縮したような洗練された立ち姿である。
「あたくしがスポットライトを独り占めにしても恨まないでくださいまし」
「あなたの世界は派手すぎる。だが、そこに“間”があるのなら、私は旋律を置ける」
まるで示し合わせたかのように2人の奇妙な共演の幕が上がる。
「私が合わせよう、演目は?」
「満員御礼、お客様方を退屈させてはいけませんわ。ラテンアメリカ...ジャイブ!」
【補足】
・ナイチンゲール
【静寂に響く弦】
音で戦うこの架空のソシャゲにおいて音を奪うことのできる誇張抜きで現段階で最強の存在。
(少なくとも設定上は)攻防回復全てに優れ、その範囲も広い。
歌うことが出来ない身体であってなおその自身の体の一部のように扱う弦さばきにより【歌姫】の座についている。
・ブーゲンビリア・ラ・ローズ
【灼熱の美学家】
戸籍上は男だが乙女の心と美学を持つダンサー。
“音”ではなく“躍り”で奏でる異色の奏者。
美学という特殊スキルで「美しくない音」すべてを無効化できる。
所謂ギャグ漫画補正のかかったキャラでありある意味での「最強」の称号を欲しいままにする最強のオカマ。
ファンからの愛称はブー様。
その歌声の美しさゆえに泣く人がいることを「美しくない」とし、自ら歌を封じ【歌姫】を辞退している。
・歌姫
文字通り音が世界を支配していると言っても過言ではない架空のソシャゲ世界において【歌姫】という称号はただ歌が上手いという以上の意味を持ち、場合によっては世界の運命すら左右する絶大な力を持つものをそう呼ぶ。
つまり称号に意味があるので歌でなくてもあってその力さえあれば歌姫になれるのだが、それでもやはり楽器の演奏で歌姫になる者はやはり異質な存在である。
この二次創作は本来向いている方向が違いすぎるが故に敵対することも共闘することも無いふたりが共演したらどうなるのかというifの話である。
【閑話休題】
「次はどんな演目にいたしましょう?」
「……音のない悲劇も、君がいれば喜劇にできそうだ」
架空のソシャゲの二次創作 eiπ + 1 = 0 @kamadoumaman
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