ある指揮者の告白
「1度だけ、ちゃんとエレノアの指揮を見たことがあるんだ」
よく晴れた日の午後、指揮者とハーレークインは歩いていた。
「いつもは別行動が多かったし、一緒にいる時も戦闘中でゆっくり見る暇なんかなかったしね」
と冗談めかして言う。
2人が歩く度に粉々になった瓦礫ががり、ごり、と音を立てる。
復興の進む街とは違い、このあたりはまだ虚無の指揮者との闘いの跡が生々しく残っているのだった。
「ははぁ、それでどうだったんです?愛しの姫君の棒振りとやらは」
ハーレークインは茶化したような口ぶりをしつつも心底つまらなそうに落ちていたレンガの破片を蹴り上げた。
少しだけ滞空した破片はガシャンと音を立てて落ちると他の破片と混ざりどこに行ったか分からなくなってしまった。
「立ち姿が凛としていて、指揮棒の一振、もう片方の手先の動き、視線の向く方向全てに意味があるような、無駄のない美しい指揮だった。きっと私ではあの境地には至れないだろうなと思ったよ。」
言い終わると指揮者は空を見上げ、まるで今まさにその光景を見て感動に打ちひしがれたようにため息を吐いた。
「だからそんな彼女に結局最後まで認めて貰えなかったことがすごく悔しいんだ」
「悔しい...?あんまり絡みがなかったボクからみてもかの姫君は十分にあなたを認めていたと思いますがね?」
そう問い返すハーレークインに指揮者は困ったような笑顔を向ける。
「ライバルとしてはね」
それを最後に暫く無言が続いた。
思い空気に空気に耐えきれなくなったハーレークインがわざとらしく陽気な歌を歌いながら道を進むと遂にかつて虚無の指揮者が拠点にしていた場所の跡地が見えてきた。
かつては確たる断絶の象徴にも見えたそこは、所々配線がむきだした機材や古めかしたレンガの壁が残っているところを除けばそのほとんどが瓦礫の山に埋もれ、他の残骸との境界が無くなっていた。
最早そうと言われなければ誰もそこが最終決戦の地などとは思いもしないだろう。
指揮者は持ってきた花束を比較的原型が残っていて風よけになる場所に置いた。
「結局、最後まで君には楽団の指揮者として認めて貰えなかったね」
誰にともなく呟いた。
「あー、思うにですがね?あのお転婆ガールはあなたと競い合うこと自体が目的になっていてそこまで深く考えていたようにはとてもとても」
そうハーレークインはチャチャを入れる。
「うん、そうかもしれない、それでも私にとっての悔いなんだ。きっと、ずっと、私は自分を認められないと思うくらいには」
西に沈み始めた陽が指揮者の顔を赤く染める。
ハーレークインは斜に構えたような笑みを浮かべ(ははぁ、これも一種の青春だねぇ)とおもったが、あえて口にしなかった。
彼にも空気を読むことくらいあるのだ。
「あは!なんだか青春ですねぇ!」
彼にそんな甲斐性があるわけなかった。
指揮者はなんとも言えない笑顔で応えると2人はまた来た道を戻るのであった。
【補足】
エレノアが退場するとは思わず塩対応していたプレイヤーが罪悪感にかられ作った二次創作。
エレノアが最後にみせた独白で主×エレに狂うがもう二度と来ないとわかっている供給に対しギリギリ公式の出している情報の範囲を出ない主×エレを出そうとした形跡がある。
因みにここで登場するハーレークインはテンションの高い気狂いピエロなのだがその会話エミュは上手くいかなかった様子。
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