夜、窓辺にて

夜も更けてきた。早く寝ないと明日に響く。階段を上り、寝室の扉に手をかけようとした時、目の端で影が揺らいだのが見えた。

「どうしたんだ、メアリー。こんな時間に。」

視線を移すと、そこには窓辺に佇むメアリーの姿があった。窓の外に顔を向けており、こちらからはその表情を伺うことはできない。しばらく待ってみたが、返答がないので言葉を重ねてみる。

「随分遠くまで来たよな。ただの片田舎の悪ガキだった俺たちが、今や世界の命運を握る勇者として旅をしてるってんだから、人生どうなるかわかったもんじゃねえな。」

本当に、遠くまで来た。数え切れない困難があった。誰が味方か分からない中で身も心もボロボロになりながらも、何とかここまで来ることが出来た。それも全て、旅に出たあの日からずっと隣でメアリーが支えてくれたからだ。

「ねえ、アレックス」

ふと、メアリーが静かに口を開いた。

「今から一緒に逃げ出さない?誰にも見つからないどこか遠くへ。」

メアリーがこちらへ振り向く。その大きな瞳は揺れていた。

「私もうダメなの。世界の命運なんてどうでもいい、なんで私達ばっかりこんなに苦しまなきゃ行けないのって、そんな事ばかり考えてる」

「な…にを…」

呻くような言葉しか出てこなかった。いつも気丈に振る舞って仲間を鼓舞しているメアリーから、そんな言葉が出てくるなどと想像もできなかったのだ。

メアリーが崩れてしまうなら、俺は――

そう思った瞬間、喉の奥に言葉が詰まった。

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