お月様になりたい

Iloha

第1話

『鬼柚子だよ』


君は僕に柚子の実をひとつくれた。


黄色くてでこぼこした皮。


「縁起がよくてね、悪いもの

 やっつけてくれるよ」

「ほんとう?」

ツンと酸っぱいけどこころを

ふんわり軽くさせてくれる香り。


僕のうちにも柚子の木がある。

お母さんに「鬼柚子」を見せた。

お母さんはガラスの瓶にいっぱいの柚子をお砂糖につけてくれた。

じわじわ。


柚子とお砂糖が溶けあって、

柔らかい光みたいな色のシロップが瓶に溜まる。柚子は少し柔らかくなって、

そのまま食べられる。


お母さんは嬉しそう。

「ありがとう」

そう言ったら笑った。

僕も嬉しくなった。


学校で友達に「ありがとう」を 言ったら

「わあ、嬉しいな」って

やっぱり君も笑った。


「君が嬉しいと僕は嬉しいよ」

そうなんだ。

僕が嬉しいと君も嬉しいんだ。

あれ、僕も同じだよ。

これすごい発見じゃないかなぁ。

大発見したから、

君に素敵なプレゼントしたいな。

いーっぱいだよ。

でも君は「わあ、そんなのいいよ」 って

言うだろ?


なんだか明るい夜。

星を見ようかって空を見上げた。

まあるいお月様が優しく笑ってる。


僕はとっても月が羨ましくなったんだ。


僕ね、君に「ありがとう」って

伝えるならこんな風に伝えたい。

離れていても君が空を見上げる。

そして「綺麗だなあ」ってしばらく

見てくれる。


だから僕は

「ああ、お月様になりたいなあ』

って憧れたよ。

笑われちゃうかなぁ 。


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