第26話「ユウヤ・後編」


「もう……やめてよ……」

「……アイラ?」


 ふと、横を見ると、目に大粒の涙を込めたアイラが遠くで立ち尽くしていた。

 この戦いに参加していなかったか?


 ……いや、戦えないのか?


 アイラが強敵に臆せず戦っていたのは、いつだって仲間のためだ。

 仲間がはぐれてた後も、世界中を回って仲間を探すほど、仲間想いの彼女は剣を握れていなかった。


 たとえ、故郷を焼かれても、仲間に剣を向けても、彼女は彼と戦うことを望んでいないのだろう。


「剣士ちゃん! 頼む、戦って——」

「よそ見していいの?」


 彼は、アイラに声を上げるキタンの隙を見逃さず、キタンに剣を振った。


「ちゃんと痛かったよ、さすがに何度も食らえない。彼を殺すためだ。すこし我慢してね」

「っぐ……」


 キタンが脇腹に剣が刺さる。

 闘力が、僕の方に向いていくのを感じた。


「ユウヤくんッ! もうやめて!!」

「大丈夫だ、アイラ。すぐ終わる」


 横目でアイラの声に答えながらも、この男は闘力を僕に向けていた。


「無明一刃!!」

「絶天一刃」


 同じ構えからの斬撃が拮抗する。


「やば……!?」


 ……が、すぐに崩れる。

 明らかに相手の闘力も技量も上だ。


焔走連弾バレットバースト

「……っ」


 すぐにマホさんが援護に入った。

 高速の火炎弾を大量に打ち出し、僕が立て直す時間を稼いだ。


「——ユウヤ!!」

「……はぁ」


 キタンが立ち上がる。タンクとして、ヘイトをかって出る。

 それにため息交じりで、応戦する勇者。


 ギリギリ。

 寸前のところで、僕はみんなに支えられてる。

 ここにアイラがいれば、とつい思ってしまう。


 ……いや、僕がやるんだ。やらなくてはならない。

 このままではジリ貧。かといってアイラはすぐに動けそうにない。

 この状況で、致命打を打てる策を考えた。


 が、ダメだ。

 剣の技量に、技、 闘力、すべてにおいて劣っている。

 加えて、スピードでも負けてる。初手の攻撃を、闘力の動きが見えたのに避けられなかった。

 今は山勘で避けられているが、そう長く持つわけがない。

 闘力の動きも、相手も見えているんじゃ論外。僕に勝てる部分はない。


 僕らにあるのは、仲間の連携だ。

 連携を生かした上で、決死の攻撃に賭けるしかない。


「マホさん!」

「なに!」


 いつにもまして、鋭い反応だった。

 目の前の敵に集中しているのだろう。


「作戦があります。これならもう一度、紅蓮焔爆スカーレットノヴァを当てれる!」

「どんな作戦?」


 僕は、素早く、簡潔にマホさんに耳打ちした。

 決死の攻撃と共に、攻撃を合わせるようにと。


「……ダメ。それはソウヤが死ぬ!」

「最終手段です! 当てれそうなら、紅蓮焔爆スカーレットノヴァを放ってください」

「ダメ、ソウヤ!」

「いいですね!!」


 マホさんの声を遮って、キタンと対峙している勇者の元へ行く。

 最終手段とは言ったが、闘力による予知と、勇者のスピードでは当てられない。

 ……やはり、決めるしかないだろう。


「来るか、偽物」

「偽物を舐めないでください! 居合抜刀 !!」

「見切り斬り」


 見切られた。

 ああ、まずい。闘力の動きが見えるのなら、先手は打てないか。

 ……切り返される!


鉄壁防御アイアンガード!!」

「……あとちょっとだったのに」


 キタンがすかさずガードする。

 キタンに攻撃が行く隙を、狙わないと!


「居合——」

「そいつはもういいよ」


 一歩踏み出したところに、勇者の足蹴りを食らう。

 早すぎて、反応できなかった。


「迅雷一閃」


 勇者が高速で迫ってくる。太刀による一撃だ。

 だが、それではダメだ。あの技でなければ、この策は決まらない。


 この時の僕は、自分に制限をかけた上で戦っていた。

 闘力をなるべく使わないように、かつ、 一対一の状況では、貯めの大きい技は使わないし、スピード勝負もしない。突き技も封印した。

 簡単にいえば、闘力の少ない技で、ある技を待っていた。


 ……が、この状況で、力を使わないのは、死が目前に近づくことを意味していた。


「——ッッぐ!!? 千刃乱舞!!」

「万刃乱舞」


 勇者の一閃を何とかガードしたあと、技を繰り出す。

 互いの斬撃がぶつかる。

 が、技も技量も、圧倒的に彼のほうが上だった。

 体に無数の斬撃が刻まれる。闘力で守ってはいたが、重い傷になった。


「終わりだ」

「……!」


 次の一撃で決まる。そう思った。

 ようやく来た。狙っていた技の構えだ。


 闘力は、攻撃にも防御にも使える。

 だから、剣士は常時闘力を込める。


 だが、この時の僕は、闘力を込めなかった。


「閃牙突」


 いともたやすく、僕の胸を貫いた。


 その技は閃牙突。

 僕も使った、 瞬牙突の完全上位互換。


 その突き技を、待っていた。

 剣先に闘力を集中させつつ、勇者の服を片手で掴む。


「——ッ!?」

「これなら、避けれないでしょう!!」


 勇者が初めて目を見開いた。

 反撃の手を動かしているが、間に合わせない。

 

「見切り——」

「—— 瞬牙突!!」


 勇者が技を繰り出す前に、彼の胸元に突き刺した。


「……ぐ!!?」

「今だ! マホさん!!」


 マホさんの方を見ると、緊迫した顔でこちらも見ていた。

 震えている。きっと、躊躇っているのだろう。

 ……この覚悟を、無下にしないでくれ!!


「早く! マホさん!!」

「クソ! 放せ!!」


 勇者が逃げようとする。

 ここで逃がせば、絶対に負ける!!


「マホさん!!」

「ソウヤの……大馬鹿ッ——紅蓮焔爆スカーレットノヴァ!!」


 瞬時に、目の前が真っ白になった。

 肌が焼ける激痛と、爆発の音が響いていた。




 どうなったのだろうか?

 体が動かない。

 耳鳴りが響いて、よく聞こえない。


「……ウヤ……ソウヤくん!!」


 アイラの声が聞こえる。

 どうなった? と聞く前に、現実が視界を覆った。


「逃げて!! ソウヤ!!」


 マホさんの叫ぶ声が聞こえる。

 そこには、僕の胸倉を掴む、勇者がいた。

 相当消耗しているのか、呼吸が荒くなっている。


「ああ、めちゃくちゃ痛いや。ほんと」


 ああ、ダメだったか。

 あともう一息と言ったところか。


「うん、たぶん一番強かった。言いたいことはそれだけだよ」

「逃げろ坊主!!」


 キタンが逃げるように言うが、もう、体は動けるような状態じゃなかった。


 マホさん、無理して打たせたのに、こんな結果で、ごめん。

 キタンさん、守ってくれたのに、こんなざまで、ごめん。


「ソウヤくん!!」


 アイラの悲鳴が聞こえる。

 ああ、そんな顔をさせたいわけじゃなかったのにな。


 ——ごめん、負けちゃった。


終幕斬エンドロール


 その声が聞こえると、僕の首は斬り飛ばされた。



 


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