第13話「森の里」
「お疲れだったな、うちの門番が失礼なことをした。門番になりたてでな、あんたらが凄腕の冒険者だと感じて警戒したみたいだ」
僕らは飯を広げて、会食をしながらこの男の話を聞いていた。
この男はキタン。だいたい二十代後半のガタイのいいお兄さんだ。
どうやら昔、アイラ、マホとパーティを組んでいたようだ。
マホ同様、自己紹介の時に『ユウヤか?』と聞かれた。
思ったのだが、二人とも勇者を呼び捨てにするのか。それとも勇者って呼び捨てにされるものなのか? ……そういう扱いなのかもしれない。
「警戒ですか……僕D級ですけどね」
もしかすると、僕じゃなくてアイラ達を警戒したのかもしれない。
「坊主、D級なのか? そうには見えないな」
なんとも意外そうな反応だった。
個人的にはもうすぐC級になれそうではあるが、ほかの二人とは見劣りすると思う。
「にしても、こんなとこに着ちまうとは、運がねぇな」
「運がない? 何かまずいことでもあるの?」
キタンの言葉にアイラが反応する。
「ああ、ここは一度入れば二度と出られない迷いの森なんだ」
「迷いの森?」
内部に入った者は二度と同じ道を通ることができない迷いの森。
地図も方位磁針も役に立たず、森自体が意志を持っているかのように地形が変化し、訪れる者を惑わせる。
話でしか聞いたことはなかったが、本当にあるのか。
確かに、僕たちも森を半日進んでいたがあまり進んでいるような気分はなかった。
「出れないの?」
「現状無理だな。俺もこの森のせいで1年ここから出れてない」
え、かなり深刻だ。
「えぇ!? じゃあ依頼の報告にはいけないですね……」
「俺も依頼の途中で入っちまってな。この里にお世話になってる」
聞くと、どれだけ歩いても森を出れず、太陽をあてにしてもこの里に戻ってしまうらしい。
そのうち、迷ったものによってできた里が出来上がったのだという。
そんな状態が3年は経っているらしい。
「マホさん、魔法の力で空を飛んだりできませんか?」
「無理」
「まぁそうだよね……」
みんなを乗せて飛べたら行けたのかもだが、そんな都合よくは行かないか。
「まぁ今日は遅いだろうし、ここで泊っていくといい」とキタンが言うため、ゆっくり休ませてもらった。
翌朝。
朝からキタンが「この里の紹介をしといてやる」というため、里を一周してくることに。
その里は広かった。
多くの住居というか、難民キャンプのようなものが多くあり、
ルインズ王国ほどではないが、なかなかの規模であった。
でもそうか、この里から出ることはできず、むしろ外から迷い込む人が来るのだから大きいのには納得せざるを得ない。
「そうだ、里のギルドを見に行くか?」
「え、ギルドがあるんですか?」
「あるさ、里の食料、住居、衣類も森から採取しないといけない。そのためにはギルドが依頼を出して斡旋するのさ」
森からは出られない。
それゆえに、この森のみですべてを補っているのか。
むしろ、森に迷い込むのは冒険者が多いだろうし、都合がいいかもしれない。
ということでギルドに行ってみることに。
掲示板には依頼書がそこら中にあり、食料確保、木材確保等の依頼が多く見られた。
だが、ひときわ大きく張り出された依頼があった。
「森林外探索?」
「やっぱそれが気になるか。そいつはこの迷いの森から出る方法を探す依頼さ」
出る方法か。
それはここに迷い込んだ人が一番願っていることだろう。
里にいる人を見たが、若い人ばかりだった。多分みな冒険者なのだろう。
依頼書を見ると、報酬額は半年は遊んで暮らせるくらいの額だった。
「でも3年も経っているのに、達成できていないの?」
「ああ、依頼を受ける奴は多いのだが、なぜか熟練の冒険者ばかり帰ってこなくて、それ以外は何もわからず帰ってくるらしい」
「力尽きた?」
「わからん、魔法ちゃんの言う通り、途中で力尽きたのかもしれんが、死体が一切ないんだ。もしくは森を出ることはできたが、ここに帰ってくるのを躊躇したんじゃないか、と里のやつらは思ってるらしい」
だからあれだけ報酬があるのか。
「でも、外に出れたなら、その状況を報告して、救援を呼ぶんじゃない?」
「ああ、俺もそう思ってる。だが森に入ったやつらから俺らを探しに来たってやつは誰一人いないんだ。だから剣士ちゃんのパターンは薄いと見てる」
これは一筋縄ではいかなそうな依頼だ。
当分帰れないと考えたほうがいいまである。
「なるほど、じゃあこの依頼を受けよう!」
とアイラが言い出した。
「えぇ?! だ、大丈夫かなぁ……」
「大丈夫です。最強のパーティがここにできてるからね。来てくれますか、キタンくん?」
「おう、いいぞ」
あまりにあっさりした返答だった。
「いいんですか?! 聞いた限りかなり危なそうですが……」
「安心しろ、俺もこの依頼は受けていたんだ。お前らがいるなら心強い」
ま、マジかぁ……。
そんな流れで、僕たちこの森の探索を始めるのであった。
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