第32話 八百尼の情念編

相談を終えた若者が帰ったあと、ほうじ茶をすすりながら、八百尼やおに招子しょうこがふうっとため息をつく。


招子:「まったく、最近の若いのは……見た目で拙僧をロリ扱いしおってからに。拙僧は立派なババアじゃというのにの」


蓮:「いやそれ言われても……見た目どう見ても●学生なんですけど」


招子(カラカラ笑い):「ほれ見ろぃ。おぬしも仲間じゃ」

そこへスミレが縁側から声をかける。


スミレ:「招子様~。また“いつもDMしてくる人”から、お手紙届いてました」


招子:「……ああ、あの“わらべ姿の母性”に萌えるという、うさん臭い大人じゃな。“茶室付きホテルデート希望”とか書いておった奴か?」


スミレ:「はい。“今度、露天風呂にご一緒しませんか♡”と……」

招子(即答):「断れ!」


スミレ:「は、はいっ!」


蓮(苦笑):「さすが八百年生きてるだけある……」


招子(しんみり):「まあ、白骨の誘いなら……フラフラ行ってしまいそうな気もするがのう……。そのまま“夜の地獄突き”されるのも一興……」


蓮:「やめてください!合法とか非合法とか超えてるから!!」


寧々子:「八百尼姐さん、あんとき黄泉洞窟で、白骨の頭骨ずっと抱えて離さなかったからな〜。けっこうガチだったんじゃないの?」


八百尼(ニヤリ):「……いや、あれはこう…保護じゃ。あの骸、あの時 罅だらけで転がるとすぐ割れそうであったでな。」


寧々子:「ふーん? しっかり抱えたり、頬寄せたり、さすってたりしたように見えたけど?」


八百尼(目を逸らして):「……そう見えたなら、そやつの脳内に煩悩が満ちておった証拠じゃろう」


八百尼招子は、茶菓子をつまみながらふと呟く。


八百尼:「しかしのう、この年で孕まされでもしたら厄介じゃ。避妊はきちんとせねばのう……」


蓮:「へッ!?」


湯呑をひっくり返し、仰天する蓮。顔が真っ赤。


蓮:「や、やめてください!年とか外見とかそういう次元超えてません!?倫理とか物理法則とか!!」


八百尼(ニコニコ):「いやあ、なにせ法も理も捻じ曲がる煩悩寺じゃからのう~」


寧々子(眉をひそめつつ):「……ああ、それ、マジで侮れないからな。あたしも

な、骨化して“もう繁殖能力ないだろ”って思ってたら――」


蓮:「えええっ!?」


寧々子(あっけらかんと):「デキちまったぞ。ちゃんと産んで育てた。いま孫が中学生。LINEでスタ連くるぞ」


蓮:「情報量が多すぎる!!」




寧々子:「姐さん、子どもできたら蓮と同級生くらいになっちまうぞ〜?」


八百尼:「……なら蓮が世話係じゃな。煩悩育児も修行のうちじゃ」


蓮:「やめて!?ほんとやめて!?骨和尚だけでもキャパオーバーなんですから!」





夜更け。静かな煩悩寺に、不意に響く軋む障子戸の音。


和尚:「まったく? なんじゃこんな夜更けに呼びだしおって──」


八百尼(本気モードの顔で):「煩悩収拾の修行、付き合ってもらうぞ白骨。」


和尚:「……ヒィ」


ガラガラ……バタン。


茶室の戸が閉まると同時に、そこから聞こえ始める人智を超えた音。


「ギャアアアアアアアア!!!」

「ほぎぇぇぇぇえええ!!」

「ぴぎゃぁぁああ!!」

(※全て和尚の悲鳴)


障子越しに影が見える。ロリババ尼僧に押し倒されて仰け反る骨。震える数珠。踊る湯呑。


畳がめくれ、仏壇が倒れ、なぜか外の鐘が「ウェーイ」と鳴る。


──そして朝。


【翌朝・境内】


つやつやと光沢を放つ肌、幾分上気した肌に艶めかしい笑みを浮かべた八百尼が、ふらりと茶室から現れた。


その小さな身体の下腹は、わずかに膨らんでいる。


蓮:「八百尼さん……その、お腹まさか……」


八百尼:「流石に一晩で孕まぬわ。あやつの骨髄液、ちと受け過ぎたようじゃ……じゃが安心せい、安全日じゃて」


蓮:「和尚って、骨髄液で……射精すんのか……(どん引き)」


寧々子「今回は完全に魂まで飛んじゃったみたいで、墓からリスポーン要請が来てるぞ。酒3升、煮干しは5kgだってよ」


蓮:「通常、酒一升と煮干し一袋で蘇るのに、今回は条件が三倍か!」



【煩悩寺裏山「白骨之墓」】


墓前に、どんと置かれた日本酒一升瓶×3、煮干し袋5kgの山。


いつもはスーッと墓石に吸い込まれる供え物が、今回はシュポン!シュポン

!シュポンッ!という感じで一瞬で墓石に吸い込まれる。


直後、地面が震え、


ボコッ!墓前の地面より和尚がよろよろとはい出した。


和尚(ガタガタ):「……わしは……地獄を見た……あの女は鬼じゃ……八百の名は伊達ではない……」


一同:「自業自得ーー!!」




煩悩寺・縁側の昼下がり


和尚(例の煮干しをつまみに般若湯をぐびり):「ふぃ~、やはり現世はええのう……」


寧々子(スパーンと縁側の戸を開けながら):「……アンタなあ、ちょっと話があ

るんだけど」


和尚:「なんじゃ、縁側からの夜景を一緒に見たいなら今はまだ明る──」


寧々子:「そうじゃねぇ!!アンタ、八百尼姐さんのところにも定期的に夜這い通え!!」


和尚(咽せる):「ぶふっ!? な、なぜワシがそんな巡回坊主のような真似をせねばならんのじゃ!?」


寧々子:「情念溜めさせると、危ないんだよ。黄泉洞窟で抱っこしたまま離さなかったんだぞ!?あんとき、あのだだっ広い結界保ちながら馬鹿でかい式神動かすのに使う霊力送ってた姐さんだからな!!それが暴走したら絶土町が危ない!」


比那子(書類抱えて通りがかり):「ああ……確かに。あの尼さん、陰陽バランス崩れると大地震とか引き起こしそうなタイプだもんね……」


クレオパトラ(扇子をパタパタしながら):「あの小柄な身体のどこに、あんな執念深いエネルギーが詰まっているのかしら……?」


蛸津比売(真顔で):「ワタシの触手感知でも、八百尼サンの気配、時々火山ガスみたいデス」


蓮:「いやみんな落ち着いて!?なんで和尚の夜這いローテ管理会議に?!」


和尚(煮干し摘みながら):「……ワシの煩悩が町を救うなど……業が深いのう……」


寧々子:「いいから行け。姐さんの“性厄災”はマジ危険なんだよ。あと避妊は絶対な」


和尚:「ぬう……やはり煩悩は、命がけじゃ……」


【備考:煩悩寺の繁殖事情】


骨が相手でも孕む(稀によくある)

法と理は煩悩に負ける

人外、ミイラ、ロリババア、全員ワンチャンある

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