第18話 ハーレム野郎VSハーレー野郎 「俺、ナニかに成っちゃいました?!」

それは、蓮・スミレ・蛸津比売命の三人が、絶土町の県道沿いを歩いていた時のことだった。


突然――


バオオォォォン!!


爆音と共に、一台のハーレーが三人の目の前で急停止!


乗っていたのは、革ジャン・サングラス・咥えタバコの大男。明らかにテンションが常軌を逸している。


「スミレェ! 俺の気持ちは伝えたよなァッ! これ、受け取ってくれッ!」

そう叫ぶと、バラの花束を差し出してきた。


蛸巫女命が首をかしげる。


「スミレ。誰デスカこのbike man?」


スミレは困ったように眉をひそめた。


「その……最近、大社に毎日来て、しつこく言い寄ってくる人で……」

Oh no!レン、これはハーレムメンバーの危機ネ! さあ、ビシッと言いまショウ!」


「いや“ハーレムメンバー”って何だよ!? ……とにかくそこの人! 彼女は迷惑してます、やめてください!」


しかし――


「ハーレムだあああ!? このヒョロガキ! ふざけんなよッ!! そこの金髪ねーちゃんもメンバーとかじゃねぇよな!?」


蛸津比売命は笑顔で親指を立てた。


「Sure!レンのハーレムメンバーNo.2はワタシデース!」


「ふざけんなあああッ!! ぶっ殺す!!」


男の目がギラついた。完全に理性が吹き飛んでいる。


(ヤバい!こいつ、目が普通じゃない!薬か何かキメてる!?)


「二人とも離れて!!」


蓮が叫ぶ。男はハーレーにまたがり――


「ハーレムやりてぇなら……これで異世界転生でもしちまええええッ!!!」

ハーレーで蓮目がけて突っ込んできたッ!!


「またかよーーーっ!!!」


蓮は即座に合気道の構えを取る。


スローモーションになる周囲。脳裏に浮かぶのは――和尚ののトラック投げ。

(……やれるッ!!)


地面を踏みしめ、片膝をつき――迫り来るバイクに、鋭い手さばきで一閃!


「煩悩流合気道――転生拒絶投げぇええええッ!!!」


次の瞬間、バイクは男ごと宙を舞い、放物線を描いて稲刈り後の田んぼにダイブ!ハーレーはパーツをまき散らしながら転がっていった


革ジャン男はそのまま秋の田んぼの中にぱったりと倒れ伏しながらつぶやく。


「転生するなら……今度は……ハーレー野郎じゃなく……ハーレム野郎に……ぐふっ……!」


そした蓮は茫然とその場に立ち尽くしす。

「……できた……俺にも……」


スミレが呟く「蓮くん、すごい……」

……と、直後に自分の鼓動がドクンと跳ねたのに気づく。


(え……なにこれ……かっこよ……)


あのいつも気怠げでヘタレっぽかった蓮くんが、まっすぐに自分たちを守った。

力だけじゃない。気迫と、優しさも見せた。


スミレの頬が熱くなり、目の端が潤む。


(もしかして、私……こんなふうに守られたかったのかも……)


その心の奥で、乙女ゲージが「ギュイーーーン」と音を立てて一気にレベルアップ。


【乙女ゲージ:56▶93%】


蛸津比売命「スミレ、顔がピンクネ~!LOVEポイント急上昇デスカ?」


スミレ「なっ、何もないっ!何もないけど……でもちょっと……キュンとはしたかも……!」


蓮「何の話してんの!?」



「それにしても、ナイスthrowsデース!」蛸津比売命が拍手。


「レン、『俺、なんかやっちゃいました?』って言わないデスカ?」


「言わないから! 絶対言わないから!!」




やがて、スミレの通報でサイレンを鳴らすパトカーと消防車が到着した。


パトカーから降りてきたのは――


翼をたたんだ烏天狗の警官と、尻尾を二本揺らす猫又の婦警。


「……警察も妖怪かよ」


事情聴取が始まった。


猫又婦警は革ジャン男の息をフンフンと嗅ぐと、


「うん、キメてるねコレ。怪我は軽いし、はい連行ねー、オラ来いッ!」

と呟きながら、バンッと車内に押し込んだ。


一方、烏天狗の警官はバインダーをめくりながら蓮を見つめる。


「煩悩寺のお弟子さん、蓮君だったよね。……ハーレーと搭乗者合わせて約400kg、それを軽く地面から放るって……なあ蓮君、キミ、人間だったよな?こりゃそろそろ『こっち側』かな」


「え……おれ……人間……やめてる? 訳の分からん……化け物に……?」



時が止まり、音が消える。


漆黒の心象空間。蓮の頭上に次々と浮かぶ『訳の分からん化け物』たち。


「見よこの角!三倍じゃからな!」

(赤く光る和尚)


「大瀑布掬い投げぇッ!」

(マワシ姿で水柱を巻き上げる寧々子)


「あなたとの逢瀬で、我は生き返りました♡」

(棺の上に立ち妖艶に微笑むクレオパトラ)


「フゥーーー!」「オイ!オイ!」

(触手オタ芸を舞う蛸津比売命)


そして、それに何の動揺も見せない笑顔のスミレ――


そこに破滅感も悲壮感も一切なかった


「……ま、いっか。今さらだわ。」



「シュポッ」と音を立てて心象世界が閉じる。


「うん、俺はまだ大丈夫。うん……多分」


烏天狗警官が言う「あ、じゃあ弟子君ここにサインお願い」


「え?俺、弟子認識なんですか?!」


「何かいつも和尚と一緒のイメージだけど、違うの?」


「飽くまで寺男のはずですが…」




帰り際、猫又婦警がふと思い出したように言った。


「あ、そうだそうだ。クレオパトラさん、空飛べるようになったんだって? 飛行許可証の申請講習、早めに受けるように言っといて」


「えっ、飛行って許可制なの!?」




https://kakuyomu.jp/users/xaren/news/16818792435605443062

6/29の近況ノートにて登場人物紹介とwhisk作成のメインキャラのイラストをアップしています。


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