第16話 3倍パワーの赤い骨

ある夜、煩悩寺の縁側で、蓮は妙な視線を感じていた。


蛸津比売命たこつひめみことはじぃ……っと、まるで獲物を狙うように彼を見つめている。


「……何だよ、さっきから」


「Nothing~!Just watching~」


笑ってごまかす蛸津比売命たこつひめみことだが、その目には明らかに何か欲望的な光が宿っていた。


「不穏すぎる……!」


蓮はこっそり、タコツヒメが放置していたタブレットの履歴を盗み見た。


そこには――


『触手×美少年』『ショタ触手拘束モノ』『男の娘、触手責め』


などの検索履歴がズラリ。


「……強制触手プレイはいやだぁぁぁぁ!!」


叫びながら逃げる蓮。その様子を柱の影からそっと見ていたスミレが、顔を赤らめる。


「蓮と触手……なんだろう、ちょっとドキドキする……!」


アブノーマルハーレムルート突入か――!?と思われたその時。


「Wait!Waitネ!誤解デース!」


タコツヒメが慌てて蓮を追いかける。


「蓮、あなた smell very very GOOD!Dry crabかに and shrimpエビ!So delicious!」

「え、乾燥カニとエビの好い匂い……?あ、実家で新製品のスナック開発してたな……」


蓮の実家は、干物と珍味を扱う老舗工場だった。


「So little でイイデス!少しだけお裾分けクダサーイ!」


どうやら蛸巫女命が蓮に執着していたのは、触手プレイではなく――


蓮の身体に染みついた、エビとカニの香りだったのだ。確かにどちらも蛸の好物である。


「……なんだ、そっちかよ!」


蓮はホッと胸を撫で下ろす。スミレはなぜか残念そうだった。




すべての誤解が解け、干物スナックを譲り受けた蛸津比売命たこつひめみことは大喜び。蓮は脱・触手地獄を果たし、ほっと一息。


だが、嵐は去ったわけではなかった――。

「ふむ……これはうまそうじゃのう」


煩悩寺の本堂にて、和尚がカニ&エビスナックの袋をパリパリと開けていた。


「どう和尚?実家の新製品だよ。」


その時不思議な現象が。和尚の骨が――真っ赤に染まりはじめた!


「ぬぉっ!? わしの骨、カニの殻みたいに染まっておる!」


「養殖マスの赤身かよ!」


赤い、実に鮮やかに赤い。しかも――


「おお……これは……力がみなぎるぞ!これなら3Pでも成仏せずいける気がするわい!赤色は三倍じゃからな、三倍!」


蓮「シ●ア・●ズナブルに謝れぇぇぇっ!!」


なおもポリポリ食べ続ける和尚。すると――


みなぎるの、おや? こんなところに角が……」


股間がもぞもぞと膨らむ。


蓮「シャ●ザ●の角はそこじゃねえから!!!」


スミレが真っ赤な顔で柱の影から覗いていた。



煩悩寺の夜――


月が妖しく輝く中、和尚は例の“カニ&エビスナック”の影響で骨が鮮やかな赤に染まり、静かに座禅を組んでいた。


その全身から立ち上る気迫は、まさに3倍増し。新スナックの威力恐るべし。


そこへ、クレオパトラ8世がしなだれかかる。


「素敵……さあ、和尚。今夜は“しっぽり”とまいりましょう」


「うむ、今宵のワシは一味も二味もいや、三味も違うぞ!」


だがその時、背後から冷たい声が。


「待ちな、白骨。クレオパトラ……あんたたち、最近回数が多すぎるわよ」


川女神・寧々子が現れ、キラリと目を光らせた。


「ふふ……嫉妬は美貌の勲章よ。でも譲らないわ。昨日あなたも散々愛されたでしょう?」


「昨夜は昨夜、今夜は今夜だ!」


一触即発――かに見えたが。


「喧嘩はアカンぞ~」


和尚が両腕で二人を抱え上げる。


「今のワシなら、二人まとめてOKじゃい!!」


「ええっ!?」


「ちょ、ちょっと白骨ッ!」


二人の女神を脇に抱えた和尚は、そのままズルズルと奥の間へフェードインしていった――。




そして深夜三時。


布団の上に、力尽きた二人の女神が倒れていた。


「……まさか、和尚にここまで……本物の砂嵐のようだったわ…」


「川の女神のあたしが……ここまで快楽に流されるなんて………」


かたや和尚。赤く輝いていた骨は、完全に白くカピカピに。


「3Pは……燃え方も3乗倍だったようじゃ……。真っ白に……燃え尽きたわい……」


そのまま骨がゴロンと転がり――


サラサラサラ……


今度はなんと粉末状になって消えていった。


朝――


お供えによってリスポーンした和尚を見届けた蓮は、ふと青ざめた。


「……待てよ。あの“赤い和尚”、騒ぎのスケールも3倍ってことじゃ……?」


その予感が現実になる前にと、蓮は実家に急いで電話を入れた。


「煩悩寺向けのカニ&エビスナック、今すぐ出荷停止してくれ!!」


ところが――


「Nooooooo!!」


悲鳴をあげたのは蛸津比売命だった。


My favoriteわたしの大好きなBelovedいとしの dry crab and shrimp干しカニとエビ!なんで!Why stop!?地獄ヨォ!!」


触手をバタつかせ、号泣モードのタコツヒメ。


蓮はため息をつきながら言った。


「……わかった。身鎮大社には配達続けるよ。あっちは騒ぎにならないだろうし」


「Glory be!! Blessed be your mercy!!」


歓喜に満ちた蛸巫女命は、触手を振り回しながら例の“オタ芸神楽”を舞い始めた。


今日も平和(?)な絶土町の1日は暮れていく――。



https://kakuyomu.jp/users/xaren/news/16818792435605443062

6/29の近況ノートにて登場人物紹介とwhisk作成のメインキャラのイラストをアップしています。


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