第16話
「って、もう十年も続いてるグループになっちゃってるじゃないですか社長!」
「残念ながらそれが君たちの実力なんだなー、あー代官山に出来た新しいピザ屋のマルゲリータ美味しいね。やっぱピザはマルゲリータに始まりマルゲリータに終わるよ」
「紅茶の時はダージリンで始まるとか言ってませんでした!?」
「ちなみにコーヒーはエスプレッソ」
「だー聞いてないー! もう、左袒くんも瑠詩葉ちゃんも真央くんも、殆ど諦めて音楽活動に専念しちゃってるんですからね!? どうしてれるんですかこの勇者一行の音楽性!」
「どうと言われても。それが君たちの選んだ道なんだろう?」
「うぎっ」
「それにどうしても辞めたいって言うなら僕は構わないよ。ドル箱は一つ消えるけれど、君たちの音楽に対する情熱がその程度だったら、僕は大いに構わない」
「ッ……」
「まあお食べよ。バジルの匂いが効いてて良いよ、これ」
「頂きます……うまっ」
真凛さんしか勇者の自覚が残らなかったのは良いことなのか悪いことなのか。分からないけれど突然殺されると言うことがなくなった俺は、亜弓とブライダルプランのパンフレットを眺めていた。結成十二年、デビュー十周年、海外で家族と仲間だけの小さい式を上げることになった。亜弓の両親には水商売だと反対されるかと思ったが、へべれけになるまで呑まされて、十年分の積もった思いを吐かされ、亜弓と俺を題材にした曲を全部歌わされると言う訳の分からない顔合わせになった。両親は笑ってばかりで助けてくれないし、亜弓は恥じ入って何にも言えないしで、地獄のようだったと思う。次の日がライブじゃなくて良かったと思うぐらい、喉ガラガラにされたから。
「やっぱり教会だよね、私たちの場合」
「そうだな。写真だけって言うのも味気ないし、二次会はレストラン借り切ってやろうぜ」
「うわーブルジョワジーの考え方だ。付いて行けない。いくらするのさ、海外のレストランって」
「四人で毎月家賃二十万円のマンションに住んでるんだぞ、こちとら。ブルジョワジーには全然なってない。それもお前と結婚したら別の場所に移ることになるが、高円寺からは離れたくないなー」
「吉祥寺も近いし便利だもんね」
「それな。まあまたアルバムまた出したから金には困らないだろ。足代と宿泊代は考えたくないが、貯金全部吐けば大丈夫だろ」
「私も出すよ。これでも宇都宮グループ本社受け付けだよ。コネが入った感がものすごいけれど、お給料は一杯貰ってる」
「人妻でも受け付けって出来んの?」
「ユーリ……受け付けを何だと思ってるの」
「え、会社の顔」
「そこものんびり結婚の楽しみしてんじゃなあい!」
真凛さんに怒鳴られ、きょとんとする。
「あ、大丈夫ですよ、デリデビさんもお呼びしますから。同会社同期デビューのよしみで。ハワイ予定してますけれど暑いと思うんでそれなりの服用意しといてください」
「えっ呼んでくれるの? 私たち勇者だよ?」
「今更ですよ。それに俺が何もしてないのは、この十年で信用して貰ってると思ってますし。取り敢えずー、互いの両親とー、ジル兄とイルとー、霧都とリューと純怜とーマネージャーさんとー、デリデビさん四人とー」
「レストラン貸切るほどじゃないんじゃない?」
「そこはそれ、遊びたいから良いじゃん。南国だぜ?」
「行くのは冬だけどね」
「でもここより暑いのは確実だろ」
「それもそうだね……」
「ドレスはプリンセスライン? マーメイドライン?」
「ダイエット成功したからマーメイドラインに挑戦してみたいっ」
「あーあー幸せそうで良いよなー。リューも最近キーボードの君と再会して作る歌がハイテンションだし。昔の失恋ソングの数々が懐かしいぜ、Fairy tale」
「そうだねー、昔は失恋ソングの王道! って言われてたよねー俺ら。今となっては懐かしいけど、いつまでユーリの結婚オフレコにしてもらえると思う?」
「五年が精々じゃねえ?」
「俺達は家賃も上がるしきりきりだよ」
「いや、良いだけ稼いでる方だろ……半年に一枚はアルバム出してるし、二カ月に一曲は新曲出してるし。俺の曲も増えて……純怜は作詞ぐらいやってみねーの?」
「俺は演奏に徹してるのが好きー。でもヘドバンすると義眼が落ちかけるんだよね。危ない」
「それは危ない」
「あ、僕そろそろデートの時間だから帰るね」
「いってらーリュー。そろそろ俺たちあの格安マンション追い出されるかもな」
「二人もいなくなったらねえ……」
「あ、ハムスター連れて行けるのか考えねーと。アマちゃんだけ仲間外れには出来ねえ」
「まだ生きてるの!? もう十五年ぐらい生きてない!?」
「まあ、魔王のお付きみたいなもんだ。はっはっは」
「全然隠す気無くなったよね~……」
「まあ異世界転生なんて『設定』みたいなもんだからな……」
その魔王、ヴィジュアル系につき ぜろ @illness24
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