忘却される恋のこと

貴方に出会うよりずっと昔

人魚になりたいと

願ったのは私の理想

神様に愛されたいと

祈ったのは私の自己愛

欲望が欲望になる前に叶う

狭い世界だった


やがて貴方に出会って

様々な思惑が交差する世の中で

ようやくといったところで認めた

こびりついた呪いのように

想いを紡ぎ募らせる

叶うはずのない懐柔した恋に


覚悟と共に追いかけて追いかけて

その都度満たされているはずなのに

その瞬間からまた足りなくなる

もっと欲しくなる

強欲が身を膨らませる

慎ましさなんて欠片も残らず

ひたすら甘さを追いかけて

切なさと醜さに苦しむ


ああそうだ

恋なんて綺麗な色なはずがないのに

そうと知りつつ甘んじて羽根を千切られる

もういっそ鋭い爪で

心臓を引き裂いてくれと願うほどの

得体の知れないもどかしい苦痛

それが恋なのだ


それを思い知ったのは

一体何度目の恋だっただろうか

それを全てまとめて

一度の運命と呼んだなら

私は来世もまた貴方に

狂おしい恋心を抱くことになるのだ


輪廻の果ての七千回先の邂逅では

運命が覆されるかもしれなかった

雲が割れ 宇宙が裸を晒す

その狭間で光に飛び込んだ

見事な fade out の果て

まるでフィルターが外れたような視界で

貴方を愛する私が消滅したかのように

貴方が好きではなくなった

ああ これが

"夢から覚める"というやつなのか

触れ合った指の感触も

握り締めた二人の熱も

ただの空っぽな台本でしかない

漠然とした強烈な喪失感

脳内で別々の人格が喧嘩する不具合

あの時零れた涙は 堪えた涙は

果たして届くだろうか 今の私に


奇跡は過去に

不幸は現在にある

正体不明の恐怖に呑み込まれそうで

また好きになりたくて

色づいた瞳に貴方を映したくて

貴方にこの胸を締め付けてほしくて

またあの目で私を見てほしくて

たまらないから


恋を忘れた私には分からない

手を伸ばしてしまう理由を

恋がどれほど美しいかを

私が貴方をどれほど愛せるかを


私はきっと来世からも

貴方を探し続け

きっと来世からは

貴方を愛せなくなる


時の流れに弄ばれた奇跡が辿り着くまで

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